4, 突風


「ねえコウちゃん、今日は川沿いの道から帰ろっか」


「いいけど、今日はやけに寄り道したがりだな」


「そう?いつも通りじゃない?」


「まあ、そう言われればそうかもな」



僕はそんなことを言いながらも、僕はエリカが "あのこと" を言い出すのを期待していた。



だって、今日は僕とエリカにとって "大切な日" なのだから。




ーーー


「それじゃあ、行きましょうか」



エリカがアイスを食べ終わったようなので、僕たちは再び帰路に就いた。




ーーー午後4時過ぎの河川敷、広場では少年たちが3人くらいでキャッチボールをしている。


この代わり映えのない景色は、この町にいる限りずっと見ることができるのだろう。



エリカは僕の少し前を歩いていて、しばらく沈黙の時間が続く。

そんな沈黙の時間もエリカと一緒に居ると心地よく感じられてしまう。



時折吹く風は心地よく、エリカの長くて綺麗な髪を撫でる。



「風、涼しいね」



そう言って河川敷の道を歩くエリカの表情は、微笑んでいるのに、どこか寂しげで、何かを諦観しているようにも見えた。

その理由はきっと…



「なんか悩み事でもあるの?」



エリカは、肩をビクッとさせて途端に立ち止まる。



「もしかして、進路のこと?」



本当は "他に言いたいこと" があるけど、僕はわざと話を逸らす。



「やっぱり、コウタには分かっちゃうんだね」


「まあ、さっきの女子3人組と話してたときに言葉濁してたし、なんとなくそんな気がしてた」


「そっか…」



エリカは立ち止まったまましばらく何も言わなかったが、深呼吸をして、なにか覚悟を決めたように僕の目を見た。


「あたし、どうしても言わないといけないことがあるの」

「まだ誰にも言ってなかったんだけど、コウタに聞いてほしい…」



「コウタ、あたしの "覚悟" 聞いてくれる?」



ーーー覚悟。

エリカは確かにそう言った。



その言葉を聞いた途端に嫌な予感がして、今すぐにでもこの場から逃げてしまいたかった。


だけど、聞かないままでいることの方がよっぽども恐いんだろう。

ならいっそのこと…



「分かった、聞くよ」



さっきまで心地よく感じていた風が一変して今度は僕の不安を煽る。



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