爽やかさのある逆転生
- ★★★ Excellent!!!
先ず三話、読ませていただきました。
長くはなりますがご了承ください。
まず感想から述べさせていただくと、爽やかさのある逆転生、である。
以降、私の感じた話になりますので、面倒であれば読み飛ばしてください。
読者諸賢、今やWEB小説における一大ジャンルといえば何を上げるか。転生物、悪徳令嬢物、ざまぁ物、たいていはこの三つの勢力を上げられるだろう。
あるものは理不尽な死を遂げ別世界へ、あるいは乙女ゲームの悪役に、乃至自分の才能の輝かぬ軍列で、このあたり、星の数ほどの物語が広大な電子の海に漂流しているわけである。
その中で、あまりこの手の物語はない気がする。異世界にいた人間が、現代日本、あるいは、現代に近しい世界に舞い落ちる、というものである。
勿論、この手合いが書かれぬ理由というのも察される部分がある。書きにくさがこの上ない。話の舞台が現代であるというだけでそれなりの制約が発生してしまうからだろう。
警察、国同士の干渉、知りつくされた地図、話を広げるには、矛盾がないようにするには緻密な話の創り上げと皆を納得させるだけの理由付けが肝要となるわけだ。
未開な土地を冒険する異世界とは違って、いわゆる雰囲気のみでは作れない、情報のマネージメントを要するハードな基盤となる。すでに興った規律やルールを元に、自分の解釈を広げ、それを読み手にもわかりやすいように昇華せねばならない。このあたりが他ジャンルにない灰汁だろう。
この点、どうしても難しさが際立つ逆転生ものだが、これをうまくまとめられた時、どのような作品にも出ない、特有の味わい、作品の風味が現れるというものだ。ハイリスクハイリターン、そんなものを私は感じている。
さて、これ以降は私の一話ごとの感想といたす。すんごい!作品が待ち受けているかもしれない。
第一話、異世界転移!こすぷれってすんごい!
話は三人の別れから始まる。話の流れから察するに、どこかの世界を守り抜いた後だろうか。之は伏線の匂いがする。うち、一人が光の粒子の中に消えていく。各々の使命の為に、ほかの世界へ、と言っていた。
流れ着くは東京ビッグサイト。まさかのリアルで存在する建物である。日時はある作品オンリーのイベントが行われている日のようだ。ラノベに端を成す作品が様々なメディア展開を受けて有名になる話しは、現代ではそう珍しくはない成功例である。もしくはこの作品も日の出を見る日が来るか。
どうやらこのイベントとは、主人公がいた世界を題材とするイベントのようである。ゲーム或いはそのメディアの中の人物に転生するという話はよくあるが、逆にそのメディアの主要人物がこちらの世界に来るというのは夢のある話ではないか。アニメの中にしかいないと思われた存在が、手に触れ香りをかぎ、確かな肉置きをもって存在するというのだ。感涙待ったなし。
イベントの波に流されっぱなしの主人公だったが、運よくか話の分かる少女と出会った。
出会った少女は現実主義だそうだ。常世慣れした化学に基づかぬ事象の一切を信じぬ若者が増えた現代においては珍しい感性である。
公式レイヤーが熱中症で倒れたので代役を、と頼まれた。いやな予感がする。こういった演劇の中でふと『本物』が紛れてしまった場合、台本としては技をうつ真似で敵役が吹っ飛ぶという打ち合わせのところ、うっかりマジの技をはなち演者を消し飛ばしかねん。転生しすぐに殺人あるいは暴行で主人公がつかまるとある意味で大番狂わせだが、物語の主幹まで狂ってしまいそうだ。
と思ったがこれは杞憂に終わった。良かったよかった。
物語中盤、現われたるはイカのような蛸のような化け物、クトゥ・ル・ルーである。SAN値直葬も辞さない。この化け物の元ネタはクトゥルフか。軟体のごとき体躯と精神を狂わせるものといえばあの上位者しかいない。
ノアの居る世界とこの現代世界ではどうやら魔力というものの伝達が違うらしい。だからいかに魔法使いといえどこの世界では気軽なぶっぱはできないようだ。良いストッパーである。しかし端から所持している宝玉の力の使用ともなれば、その制限の限りではない。時空をまたいでもって来るは竜魔法の根源、これらはFFの召喚獣の類と解するのがもっともか。
激闘の末にノアは化け物の本体に肉薄する。それは一冊の本だった。ここの表現が生々しい。本までSAN値を削る造りのようだ。なんというかスカイリムのアポクリファに似た何かを感じる。
次回予告!なんて掛け声が聞こえてきそうな語りである。引きというか、クリフハンガー的にはかなり有効そうだ。
第二話、ナユタ、すんごい!巨大ロボット、すんごい!
題名がテーマパークに来た子供のテンションのそれである。お手手つながれてるイメージが沸く。
二話にして準ヒロインがキモカワ好きであることが明言された。いやわかる。ハダカデバネズミをかわいいと思うことも、フルフルをかわいいと思うこともわかるが、ネタ抜きの百パーセントの愛でこの二匹を選ぶとするならそれはもう筋金入りと呼んでいいだろう。なお彼女のこの狂おしいまでのキモカワ好きは後の伏線となるのだった。
ナユタの御両親は考古学者だそうな。おそらくは現実主義といった思考も根本を覗けば彼女の両親がルーツか。学者の最大の敵は現状の常識である。常識が史実を否定することも茶飯事な仕事ゆえ、言ってしまえば世に跋扈する常識の片鱗よりも、己の目で見て耳で聞いた物のほうが真実に近い、とするのも無理はない。常識に縛られれば真実が見えず、常識を知らなければ虚偽がわからぬ。むつかしい世界である。
実はこの世界の地球は侵略を受けているそうだ。驚いたことに、住民の末端まですらもその事実を把握している。同ジャンルで言うならそういうことは水面下に隠されて、あくまで平の住人は知らぬ、と言う手を使うのが多く感じるが、逆にあけっぴろげであるのは珍しい気がする。
なんとナユタは防衛組織のメンバーらしい。道理で肝っ玉が強い様子。
さておっちょこちょいで傲慢ちき、ぬるぬるぬめぬめの少女、クトゥ・ル・ルーは滅んでいなかった。懲悪物の作品で敵を殲滅せんのも珍しいものである。
ナユタの軟体好きはここで爆発する。なんとこの深海からの侵略者を受け入れて手ごまにしてしまった。何たる裁量。後々の話を見ればわかるが、このぬめぬめ少女のナユタに対する忠誠の心持は割とガチのようだ。証拠にノアを小娘と呼ぶがナユタは娘と呼んでいる。この違い、小さそうで結構重要なものなんだなこれが。
物語の中盤、襲い来るは次元の歪み、この世の者とは思えない全身赤い筋の入った真っ黒いなにか。咆哮を上げて東京ビックサイトへ向かうは異形、ケイオスビーストである。混沌獣、と呼ばれているらしい。
何とナユタは戦闘員だった。ここまでは主人公ノアの頭脳として補佐するものかと思いきやゴリゴリのパワーファイターであった。僧服をまとった武闘家みたいなものである。堅物な頭は頭突きの為に在る。難しそうな参考書? 角で殴るために在る。
ともかく、ケイオスビーストとの戦闘時には巨大ロボを駆動させて戦いに赴いた。毛色が変わった、ただの魔法少女ものではないらしい。
同時にこのケイオスビーストなる化け物と深海よりの侵略者はどうやら一枚岩の存在ではなかったらしいことが判明した。故にクトゥ・ル・ルなる化け物が応戦をする。胸熱展開ではなかろうか。
多大な技を使用し、この化け物を撃破。この戦を通して三人の絆もちょっとばかり、ほんの少しばかり深くなったのではないだろうか。
第三話、そして日常へ… ちきゅう!すんごい!
タイトルコールのノアがちょっと脳みそがとろけてしまった感じに見えた。ちきゅう!が、ふぎゅう!に見えた。ともかく何等かに至極感銘を受けたんだろう。ノアのリアクションもすんごい!
冒頭はノアに対する現代科学の紹介か。これは現代転生の作品で言うと目玉のようなものだ。主人公となる異世界人からすれば現代の基盤となる科学やそれに伴った発明というのは一切が目新しいものである。それに触れ、カルチャーショックを受ける様を見届けるのは楽しい。
思えば、舞台は夏場である。その夏場の炎天下の中にタコかイカかどっちにもつかぬ軟体を放るのはめちゃくちゃ可哀そうだ。常に彼女は干からびるといっていた。塩をかけたらどうなるのだろう。
ところどころナユタの優秀さが垣間見える場面がある。年端の行かぬ娘の割に戦闘に準じたり、戦闘データをレポートとして書き残す、という行動をそつなく終えるあたり、この娘は攻防戦に身を置くことに慣れている雰囲気がある。組織としてもかなり上澄みな人物ではなかろうか。
ナユタの家はタワマンの最上階だった。相当な金持ちである。
夕餉のレベルが一般高校生の作るレベルじゃない。作るものも使う素材も超高級品ではないか。伊勢海老が食卓で並んだら私は先ず理由を問う。問わねばならん。なぜそんなものが出るのか。毒は入ってないか。
かくしてノアは飯を囲い、風呂を堪能し、初の地球の最初の一日をかくして終える。
彼女の地球での生活は如何に。
統括したい。
読んだ感触で言うと、日曜朝に放映されている、過激ではないが勧善懲悪を題材にした魔法少女ものを視聴しているかのような雰囲気を味わった。さわやかさがあり、こと親しみやすさで言うならいうことなしだろう。今のところ、曇るほどの険しい設定はないし、ライトな書き口はポップな世界観とマッチしていて隙が無い。加えて物語終了後のノアの語りはアニメで言う次回予告を意識しているのだろうか。あるいはあとがきのようなものかはわからんが、この物語をしてちょっとしたアクセントではあると思う。
さて、私の感想は、爽やかさのある逆転生、である。
日柄の良い天気のような物語だった。曇りは一つとしてなく、どちらかというと、三話読んだ感想としてはせんとうをちょいちょいと、あとは日常ののんびりとしたパート。キャラクターの明るそうな表情も浮かんでくるようで、陽気な展開が続くのもよいものと思った。
転生物はどうしてもキャラクターを勝たせ、あるいは世界になじませるために、否が応にも戦闘でどうしたり、スキルをこうしたり、という血なまぐさく手垢に塗れた戦闘描写の羅列が続いてしまったりするわけだが、こと現代という平和的な世界線だからこそ、こういった平穏とする描写が許される、そういう手もあると気付かされた。なるほどこの手は良い。
大変面白く読ませていただきました。
応援させていただきます。