『終章〜植樹祭〜』
豊穣の十月修迷の二日、午前九時。
霊長砂漠エレジー区にて、NWS主催による植樹祭が執り行われていた。
参加者は定員の三百名を超える、三百四十名。
急な知らせだったにもかかわらず、老若男女問わず集まり、近隣のウィミナリスからの参加者もいたくらいだった。
用意された木の苗は五千本。
一人16~17本と、結構な重労働だったが、砂漠の緑化という壮大な目的のためか、苦情は出なかった。
固いはずの地面は意外にも柔らかく、掘れば水が染み出すほどの土地になっていた。
これは先日、レンナが蒼繫風水紋を施したためだったが、突然植樹が可能になったこの土地を怪しんで、科学者が調査ついでに参加していた。
その結論によれば、ヘカテ山からの伏流水が、長いことエレジー区に流れ込んで、浸出した、ということだった。
ここ数年、雨量が少なくなっているのは、砂漠化が進行しているから。という情報が流れていたので、心を痛めていた人は多く、申し込みは軽く千人を超えていた。
植樹する木の苗さえ確保できれば、第二弾、第三弾も考えていいだろうとNWSは見込んでいた。
参加費は得ていなかったが、国が喜んで費用を拠出してくれるから、なんの問題もない。
NWSにとって、国を憂える人々がこうして力を貸してくれることは、頼もしく勇気づけられることなのだった。
「レンナ……!」
名前を呼ばれてレンナが振り返ると、そこには一組の少年と少女が佇んでいた。
「ヤヌ様! シルデ様!」
ヤヌアリウス(17歳)とシルデニア(14歳)。
万世の秘法を一緒に学んだ友人であり、レンナにとっては孤独から救ってくれた恩人でもある。
シルデニアが口元に人差し指を立てた。
「ここではせめて”さん”づけで呼ばないと、みんなが変に思うわよ」
あっと、レンナは手で口を押さえた。
「ごめんなさい」
ハハハ、とヤヌアリウスが笑う。
「習慣って怖いね。久しぶり、レンナ。と言っても別れてから一か月も経ってないか」
すでにあたりを圧するほどの気配を放っていたヤヌアリウスは、どこに行っても注目の的だった。
「そうですね。それにしても、お二人が植樹祭に参加されるとは思いませんでした」
「そんなに変かな? だって大事なことじゃないか。ウィミナリスにとっても、パラティヌスにとっても」
「はい」
「ところでレンナ、今回の修法はすごかったね。いっぺんに五箇所も陣を作っただろう?」
言いながらヤヌアリウスがスコップを地面に突き立てて掘る。
「えっ、どうしてご存知なんですか?」
「見えたんだよ。世界に描かれたグランドクロスが。僕らは太陽の峰にいたけど、六大精霊が渾然一体となって、それは見事だったよ」
「そうだったんですか……私は全然わからなかったんです」
「あら、意図してそうしたのではないの?」
「いえ、ただ調子がいいなぁとは思ってたんですけど、そんなことになってるとは思わなくて……ウェンデス様にもご迷惑をおかけしてしまいました」
「レンナらしいなぁ。いや、無自覚だったからこそ、あんな偉業が達成できたんだろうね」
くすぐったそうにレンナは笑った。それを見ていたシルデニアが、以前と様子が違うことに気づいた。
「レンナ……最近、何かいいことがあった? 何だか弾けるように明るいわ」
「……どうしてわかっちゃうんでしょうね。実は両親に会って、いろいろ思い悩んでいたことが解消したんです」
そう言って笑う笑顔が底抜けに明るい。
「よかったね、さすがはレンナのご両親だ」
レンナに初めて会った時に感じた、底知れぬ闇が浄化されている。内から溢れ出る喜びに、透けるような輝きがあった。
実のところ、二人はレンナを心配して、植樹祭にまで参加したのだが、どうやら杞憂だったようだ。
「あ、今、家族も一緒に参加してるんですよ。よかったら会ってくださいませんか?」
「うん、是非」
ヤヌアリウスとシルデニアは顔を見合わせて笑った。
植えられたコナラの苗が、光を弾いた。
パイオニアオブエイジ~偉業の少女~ どん @tsukkiy-don
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