第五話「流」
今日は特別な日。
私はお母さんと知らない誰かが怖くなっていた。
きっとその怖さは生まれた時からからずっとあったけれど、子供のころには気づかなかった。
だから私は逃げ出した。
新しい服はアイツの時計を売って買った。
オシャレをしてみたかったけれど、それよりも身体を隠せる服を選んだ。
今日はこの世界に『白い人』がやってくる日。
私はあの日と同じ場所に座っている。
あの日に破れた透明な壁は不自然なほど透き通っていた。
今日はあの日よりも少し静かな気がする。
私はもう一度『白い人』に会いたい。話したい事は決まっている。
天井にある大きな窓が白く曇った。
私は透明な壁の前に近づく。あの日と違って私の身体はもう小さくない。
だけど私は蛇のように人と人との間をすり抜けてなんとか一番前に出た。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
大きな音を鳴らしながらあの重い扉が開く。『白い人』だ。
あの日と同じように周りにいる人たちが一斉に喚き始めた。
けれど私は透明な壁に息を吹きかけて自分の名前を大きく書いた。
たまたま目の前に来た『白い人』が私の前で足を止める。やっぱり私は運が良い。
苦しい。あの日と同じだ。
もう少し我慢すればこの透明な壁が白くなる。
バリーンッ
壁が破れる。赤いランプが光ると共に警報が鳴る。
私は『白い人』の前で服を脱いで肌についた黒い靄を必死に拭った。
「私を『あの星』に連れて行って」
「私の色を見て」
「……ごめんなさい」
「あなたは『あの星』では生きられません」
「私たちも『あの星』ではもう生きられません」
『白い人』はそう言うと膝をついて涙を流した。
肌が白くなれば『白い人』になれると思ったのに……
肌が白くなれば『あの星』に行けると思ったのに……
次の瞬間、私の身体にいくつもの細い腕が押し寄せられた。
やっぱり『白い人』は優しくはない。
「やっとみつけた……」
私を覆いつくす腕の外から誰かがそう言った。
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