第三話「小さな空」

 あと4本で出られる。

 お母さんはそう手紙で教えてくれた。

 けれどそれは何日も前の約束。手紙はもうずっとこない。

 わたしは天井の小さな窓に手紙を重ねる。

 いつもわたしを照らしていてくれた電球よりも太陽の方が明るい。

 お母さんは嘘をついたかもしれないけれど前のお母さんは嘘つきじゃないかもしれない。

 だって『白い人』の目はあんなにも青かったから。

 あの『白い人』はもう『あの星』に帰っただろうか。

 わたしも早く家に帰りたい。

 家に帰ったら空が見える家に引っ越せるようにお母さんを説得してみよう。



 ここに閉じ込められた人たちがみんな病気で死んでいく。

 わたしもここから出る前に死んでしまうかもしれない。


 そうだ。

 あの透明な壁は壊れる前に白くなった。

 もうずっと前の事だけれどわたしは頭が良いから覚えている。

 わたしの身体はみんなより小さいけれど背伸びをすれば天井の窓を白くできる。


 わたしは何度も小さい窓に息を吹きかけた。だけどこの透明な壁はびくともしない。

 足の指先が痛い。

 わたしは何日も何日も窓を白くした。それでもこの透明な壁はびくともしない。

 早く家に帰りたい。

 わたしは頭が良くて良いから覚えている。透明な壁は白くなれば壊れることを。

 息を吹きかければ窓を白く白く出来ている。

 あともう少しかもしれない。

 なんどもなんども吹きかければ白くなるのをおぼえている。

 覚えているからなんにちもなんにちもいきをふきかける。

 しろくなればいつか外に出られる。

 でるためにはなんどもなんどもいきをふきかける……


 もう窓は白くならない。

 夜は怖い。

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