第七話「防護服」
朝、目を覚ますと目の前に白い星が大きく見えていると飛行機が教えてくれた。
『あの星』だ。
私は飛行機の小さな窓から外を覗く。
「綺麗……」
外を見るのを我慢しておいて良かった。
私は急いで操縦席に座るとベルトをきつく締めた。
いまから着陸する。
飛行機が白い靄を抜けると夜明け色の地面が見えた。
前のお母さんが言っていたことは嘘ではなかった。
きっとあれが海だ。
本当は北京に降りる予定だったけれど、地図と違ってそこには海しかなかったから訓練通り印を探した。
『この星』はだんだんと水が増えていく不思議な星だ。
私たちの星にも少し水を分けて欲しい。
あった。
やっぱり私は運が良い。
私が乗る飛行機は印の上に着陸した。
早く外に出たかったけれど身体が重くて動かなかった。
約束した運動をサボっていたせいで頑張った成果が消えてしまったのかもしれない。
飛行機の扉が開く音と同時に暑そうな服を着た人たちがいっぱい乗り込んでくる。
「天使様……」
その人たちはみんな私をそう呼んで建物の中まで歓迎してくれた。
私は白い部屋に連れていかれると約束通り注射をした。
やっぱり痛いのは嫌いだ。
私が『この星』に来るまでに私たちの星に住む人たちはみんな病気になってしまったらしい。
人の数は半分になってしまった。私に本を渡してくれた人も死んでしまった。
今からそれを治すお薬を作るみたいだ。
この人たちは本当に『白い人』なのだろうか。
私は暑そうな服を着た人たちの顔をまだ見ていない。
私はこの星で一度も立つことは出来なかった。『白い人』は私たちよりも身体が強いらしい。
『この星』にきてからどこにも遊びに行けていない。
でも約束通り私はもう帰らなくちゃいけない。
「最後に海が見たい」
私がそう言うと暑そうな服を着た人たちがみんな困ってしまった。
だけど一人の人が手を挙げて最後に私に海を見せてくれることになった。
暑そうな服を着たその人は私を動く椅子に乗せて外に出してくれた。
海はここから近いらしい。
外にはたくさんの植物とお花の看板が立っていて綺麗だった。
初めて感じる風の暖かさ。犬みたいに走り回ってみたい。
しばらく動く椅子に揺られていると柔らかい音が聞こえてきた。
私をここまで連れてきた人は足を止める。
底が見えそうなほど綺麗な水。
なにもいない静かな水。
お母さんが教えてくれたのは青い海。
だけど私が見ているのはどこまでも続く透明な海。
不思議だ。
「この波の下には昔、平和を破った人たちが住んでいたの」
私をここまで連れてきた人は私に教えてくれた。
「どうして?」
私がそう聞くと、
「それが平和よりも大切だと思っていたから」
「あなたもそう思うでしょ?」
そう言い残すと、私をここまで連れてきた人は暗い海に飛び込んだ。
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