第九話「遠い過去」
私はお母さんに抱えられながらピカピカと光る廊下をずっと進む。
お母さんは私を静かな暗い部屋に運ぶと足を止めた。
だけど『本当のお母さん』どころかこの部屋には誰もいない。
「ここはなに?」
「本当のお母さんはどこにいるの?」
私がお母さんにそう聞くと部屋の壁が白く光った。
まぶしい。
「ここは墓場です」
「私たちの創造主様たちが眠っています」
「どういうこと?」
「あなた様のオリジナルは、3714日前に、生体反応を、停止」
「DNA情報を保存後、焼却処分を、行いました」
「また、意識の保存は、本人が望まなかったため、行いませんでした」
「ここには、6件のメッセージが、残っています」
「再生しますか?」
「……うん」
私がそう答えると床から女の人が飛び出してきた。
これが『本当のお母さん』なの?
これは私たちが知らない『この星』の姿。
私が思っていたよりもずっと遠い『この星』の姿。
『この星』の歴史。
『この星』の寿命。
『本当のお母さん』が残したかったもの。
『本当のお母さん』が消したかったもの。
私たちの星で生きる人たち。
私たちの星で生きられない人たち。
私が生まれた意味。
それとあともう一つ。
私は『本当のお母さん』からいろいろ教えてもらった。
平和を望む人たち。救いを望む人たち。終わりを決めた人たち。
そして全てを捨てて新しい道を作った人たち。
私の目に映っていたのはその中の一つだけ。
いや、きっとそのどれも映っていなかった。
私が見ていたのは尾ひれのついた遠い過去。
「お母さん」
「みんなを治せる薬を作れる?」
「可能です」
「ですが、輸送手段が、ありません」
「飛行機なら直せばいいよ」
「あなた様の身体は、鉄の毒に、侵されています」
「ワクチンが完成するまでに、あなた様は97%の確率で、死を迎えます」
「また、平和維持のために、自動操縦型の船が、あなた様の星に入ることは、禁止されています」
「権限を発動します」
「どうにかして」
「お願い」
「M計画プロトコル内に存在するThe Oneの固有ID認証を確認」
「……了解しました」
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