伏見大吾は、京都で一人暮らしを始めた大学院生。しかし、引っ越したその日、誰もいないはずの部屋で不思議な声が響きます。それは、この部屋の前の住人であり、急病で亡くなった野上麻の声でした。
姿は見えず、触れることもできないけれど、彼女との会話はどこか温かく、彼の一人暮らしは「ふたり暮らし」のようになっていきます。次第に彼女の存在に惹かれていく僕。しかし、彼女は声だけの存在で……。
二人の掛け合いは軽快で、時に冗談を交えながら、少しずつ互いの距離を縮めていきます。「大ちゃん」「麻ちゃん」と呼び合うやり取りが二人の親密さを際立たせて、読者の心を温かくします。幽霊である麻との関係が普通の恋愛とは違う形で進んでいく点が、物語の切なさと独特の魅力につながっています。
テンポの良い会話と、詩的な情景描写。大吾と麻の掛け合いは軽妙でユーモアに溢れ、読者を惹きつけます。ちょっとした冗談のやり取りが、二人の関係の温かさを感じさせます。
また京都という舞台を活かした情景描写も美しく、春の風や陽だまりの温もりが二人の心の変化と絶妙に重なっています。
幽霊という特異な存在を通じて、心のつながりの大切さを描いた物語。幽霊と人間という枠を超えた関係の中で、日々をともに過ごすことで生まれる特別な絆が、読者の心に響きます。
大吾と麻のやり取りが微笑ましく切なく描かれる作品。ぜひ、ラストまで読んでほしいです。
「あの~」
一人暮らしの部屋のどこかから、そんな声がかかったら。
あなたならどうしますか?
聞こえなかったフリをする?
逃げだす?
この物語の主人公である大吾は、思わず返事をしてうっかり会話を成立させてしまいます。
声の主は、急病で亡くなった前の住人である麻。
え、やっぱり幽霊⁉︎
普通ならゾッとしてしまいそうですが、この麻ちゃん。ひとり暮らしの方ならば、自分の部屋にも麻ちゃんがいてくれたらな〜と思ってしまうくらい温かい雰囲気のとても素敵なお姉さんなのです。
この物語は、大吾と声だけの存在である麻との不思議な同居生活を中心に綴られます。
そして、一緒に過ごす中で、お互いに通じ合っていき信頼を深める2人。
大吾の関西弁も魅力的ですし、主人公の周りの人々も思いやりがあって胸がじんとなるシーンがあちこちにあるなど読みどころたっぷり♪
心と心で繋がっていく、温かく切ないプラトニックな恋と穏やかな人間ドラマが味わえる素敵な物語です。
どうぞ、読んでみてください。