第9話

【闘病記録】


秋野しゅうや爽子は今年もまた2か月間ちょうどで眠りを迎えた。】

【爽籟病については未だ解明できず。】

【引き続き、治療および治療法の解明を行います。】

【――秋野鹿目かなめ


 出来上がった報告書を、国の機関のメールアドレスに載せて『送信』のボタンを1回クリックする。無事に送信されたことを確認して、パソコンから視線を逸らしメガネを外した。


 国からの連絡はいつだって、僕にとって最高な嫌味だ。

 胸糞悪いメールの返信に思わず長い溜め息が出るなんて、日常茶飯事だ。

 国は、爽子さんのことを『研究の道具』のひとつとしか見ていない。利用できるとしか見ていない。


 ああ、気持ち悪すぎて、腹が立つ。


 信用の出来ない国にも。

 そんな国に歯向かうことの出来ないちっぽけな自分にも。


 雪が、しんしんと降り積もってきた。

 とても美しい白銀世界が窓の外に広がっていたので、僕は思わず外の風景をカメラの中に残す。ここが檻の中であることを、つい忘れてしまうような、息を呑むような美しさだった。


 今年こそ、雪うさぎを作れるようにしよう。君が起きた時に驚かしてやりたいから。

 春になったら桜の塩漬けを作って、桜茶でも飲もうか。和菓子に使うのも悪くないね。作れるように勉強しなきゃ。

 夏は、森の中に川があるから、川の写真でも撮ろうか。きっと涼しい気持ちになれるよ。


 僕は君の笑顔を見ると、とても胸がいっぱいになる。同時に痛みを訴える。恋愛のように甘く温いものが、僕の脳内を支配していく。

 でもこれは、恋愛感情ではない。

 きっと違う。同情、のようなものだと僕は思っている。

 ああ姉さん。まだ彼女を連れて行かないで。

 僕はまだ、彼女になにもしてあげられてないんだ。


 爽籟に溶けていく君に、僕は――をしてしまったんだから。

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爽籟に溶けていく君は KaoLi @t58vxwqk

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