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たたっ! 痛いよ、お姉ちゃん! 離して!」

「離さない! だって、あんたがあたしのアイス、食べちゃったんでしょ。正直に言いなさい、


 リビングに『真犯人』が現れた。

 アイス消失の件で騒ぎになっている間、ずっと二階にこもっていた人物――この家の末っ子で、十一歳のユキヤが、お姉ちゃんに引っ立てられるような感じでリビングに姿を見せる。

「うぅ……食べたよ。お姉ちゃんのアイス、ぼくが食べました!」

 さんざん責められたユキヤは、とうとう観念して自供した。

 お姉ちゃんはユキヤの首根っこを掴んだままさらに問い詰める。

「どうして食べちゃったの。しかも、何でそれを黙ってるのよ! あたしにバレて怒られると思わなかったの?」

「……ぼくが食べたって言わなければ、誰か他の人のせいになるかなぁ~と思って。こんなに早くバレるなんてびっくりだよ」

 ユキヤはペロリと舌を出した。途端にお姉ちゃんの眉が吊り上がる。

「他の人のせいになんてできないよ。お母さんはダイエット中だし、お父さんは、アイスといえばサーティー・サーティーなんだから」

「お父さんとお母さんがダメなら、サトルが食べちゃったことにすれば……」

 ユキヤの目が、僕を捉える。

 ひどい。僕は盗み食いなんてしないぞ! よし、と言われるまでちゃんと待てる!

 抗議しようとしたそのとき――お姉ちゃんにふわりと抱き上げられた。


「サトルがアイスなんて食べるわけないでしょ。だってこの子――なんだから!」


 やれやれ。

 お姉ちゃん、もっと正確に言ってほしいなぁ。ただの犬じゃない。由緒正しき『柴犬』だよ。

 僕はこの家で――お父さんとお母さんとお姉ちゃんとユキヤが住むこの家で、生後三か月のころから一緒に暮らしている。

 みんな僕のことを大事にしてくれるけど、この家の家族は四人。僕はあくまでペットだ。立派な柴犬として、その辺の線引きはしっかりしないとね!


「四人の家族のうち、あたしは被害者。お父さんとお母さんはアリバイが確認されたの。三時から三時半の間、この家にいたのはユキヤだけ。そのときアイスを食べちゃったのね」

 お姉ちゃんは僕を抱いたまま、ユキヤを睨み続けている。

「うん、そうだよ。……あーあ、みんなにアリバイがあるとか、考えてもみなかった」

 ユキヤは肩を竦めたあと、ごめんなさいと謝った。

 これで一件落着だ!


「まったく。サトルに罪をなすりつけようとしてただなんて、とんでもないよ。サトルはこーんなにかわいい犬なのに」

 だから、お姉ちゃん。僕はただの犬じゃなくて柴犬だよ。

「ほんとよねぇ。サトルはちっちゃいから、冷蔵庫なんて開けられないのにね」

 お母さん、僕だって冷蔵庫の開け方くらい知ってるよ。ドッグフードが入ってないから、触らないだけだよ!

「よーしよし、サトル。よーしよし」

 お父さんが僕の頭を撫で回した。さらに、横から小さい手がにゅっと伸びてくる。

「ぼくもサトルと遊ぶー!」

「ちょっとユキヤ、サトルを独り占めしないで。あたし、学校から帰ってきたばかりでまだ触り足りないんだから!」

「あら、お母さんも抱っこしたいわ。サトルの抜け毛が散らからないように、いつも掃除機をかけてるのはお母さんなのよ」

「サトル、よーし、よしよし!」


 ねぇみんな、僕のこと、いつまでも赤ちゃんだと思ってない?!

 僕、もう立派な成犬だよ。十二歳だから、人間でいうと六十歳以上になるんだよ!

 だけど、うう……ナデナデはちょっと気持ちいい……なんだか嬉しくなっちゃって、尻尾が揺れるのを抑えられない!

 もうたまらなくなって、僕は短い尻尾を振り回しながら自分の気持ちを爆発させた。


「わん!!」




    了

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家族は四人 相沢泉見 @IzumiAizawa

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