第8話 魔王様、ささやく。

 ……このまま眠りたかった。けれど、目が覚めてしまった。

 そして、やはり魔王の私室に眠らされていたが……今回は既に魔王はロリっ子状態で誰かと通信しているようだった。


「うむうむ、ちゃんと薬は抜けてきておるか?

 うむ、それは良かったのじゃ。まったく、人の国はやっておることが魔族以上に下衆いことが多いぞ。

 なに? 無理矢理刻み込まれた魔法は消してもらったけど、自分で魔法を覚えてみたいじゃと?

 かっかっかっ、なんとも向上心が高い娘じゃな!」


 すごく楽しそうに魔王は通信をしており、ちらりと見えた水晶玉には照れた笑みを浮かべる賢者の姿が見えた。

 ……え? どういう、ことだ??


「ならばお主のために、魔法の師を用意してやろうではないか。

 ……お礼などよいよい、ただし力をつけよ。二度と他者に利用されぬほどの力を」


 言い終えると魔王は通信を切ると何時ものように寝転んだ。

 その表情は嬉しそうで、ギュッと抱き着いてきた。


「勇者よ。人の国はやはり外道じゃな……。

 知っておるか? 賢者は元々は普通の娘だったんじゃよ。

 それを魔法の才があったからと、無理矢理拘束し、隷属化し、物のように扱った……。

 物に感情など不要。じゃから、お主が知っておる言われたことだけを行うだけの存在となっておったんじゃ。

 そして要らなくなった物は廃棄する。じゃからお主が負けたのを知った瞬間に自爆しようとした。

 そんなこと、わしは許さぬ。じゃから、隷属化を解除した。他にも施されていたものも解除した。

 勇者よ。お主の仲間には従わざる理由がある……それをわしは、解消していく。

 無論……勇者、お主も気づいておらぬじゃろうが、従っている理由があるのじゃ。

 じゃから、わしが絶対に解消してやるのじゃ。

 お主は何も知らない。ただただ、わしを……魔王フォクスロリアを悪と思い続けておれば良いのじゃ。

 愛しておるぞ……勇者よ」



 優しい瞳で魔王は、フォクスロリアは見つめていた。


 ……なにかを、大事ななにかを、忘れているのだろうか?

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狐魔王の二重生活 清水裕 @Yutaka_Shimizu

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