第3話


 参加者全てがいなくなったパーティー会場。残っているのは、執事のタカハシと、虎次郎、ヒカコ、そしてスクリーンに映し出された金有夫人である。


「謎は全て解けました」


 ヒカコがそう言うと、金有夫人は悲しげな顔で「犯人は一体?」と聞いた。


「犯人は、この中にはいません」


「それは、そうでしょう。だってそこにはタカハシと、虎次郎とヒカコさんだけですもの」


「そうです。でも、この島にもいないはずです」


「え? この島にもいないって、そんな船はもう夕方からは出ていないし、盗んだ人はこの島から出られていないはずだよ」


「虎次郎さん、そうなんです。誰もこの島から出ていない。でも、犯人はここにはいません」


「え? それってどう言う意味? だって盗まれる瞬間を僕たちは目の前で見ていたよね?!」


「そうなんです。でも、それがそもそも間違いだったんです」


 ヒカコはそう言って、ガラスケースの中についている小さな電気を指さした。


「このガラスケースに取り付けられている小さな電気、これは、多分ホログラムを映し出す電気、つまりはレーザーのようなものです。それに、このガラス、普通のガラスと違って、外部から光の干渉をさせないような作りになっているはずです」


「確かに。よく見ると、ただの分厚いガラスってだけじゃないみたいだね」


「この犯行は、おそらくここにいない人。そして、アボガドの種を最後に触った人ということになります」


「まさか……」


 金有夫人がスクリーンの中で、小さく呟いた。その表情はとても暗く、絶望感も滲み出ている。


「父さんだ……」


 虎次郎が信じられないという声を出して呟く。


「そうです。虎次郎さんのお父様です」


「嘘だ! 父さんがそんなことするわけがないじゃないかっ!」


 虎次郎が叫び声にも似た声を荒げた瞬間、スクリーンに映し出されている金有夫人の画像が半分になり、もう半分に虎次郎の父、龍一郎りゅういちろうが現れた。


「さすが謎道一族のお嬢さんだ。まさか本当にこの謎を解くとは」


「父さん! 嘘だろ? 父さんがやったんじゃないよね?」


「いいや、虎次郎。俺がやったんだ。でも、安心して欲しい。本物のアボカドの種は一番いい場所にある」


「なんでこんなことっ!」


「嫌気がさしたんだよ。母さんにも俺の姿は見えているはず。母さん、よく聞いて欲しい。うちにはお金がありすぎるんだ。それは何も悪いことじゃないけれど、一つで二十五億円もするものを所有していると、人は頭がおかしくなるんだよ。母さんだってそうだろ? 代々の習わしで誕生日パーティーでアボカドの種をお披露目するたびに、人を疑って、今や人間不信になってしまったじゃないか。麗子だって龍次郎だってそうだ。アボカドの種を手に入れて、一族から抜け出し、自由に生きたいと思っている」


「だから、盗んだと?」金有夫人が寂しそうな声でそう聞くと、虎次郎の父、龍一郎は、答える。


「そうだよ、母さん。だってアボカドの種はもともと、誰のものでもないじゃないか。オーストラリアの原住民、アボリジニーの神聖な持ち物だったものを、どこかの盗賊が盗んで裏ルートで売買したことくらい、調べ尽くしてもう知っているよ」


「龍一郎……」


「だから、それは元あった場所に返すべきだ。それと、二十五億くらいなくなったって、びくともしない力が私たちにはあるだろう? たった二十五億の誰かが盗んできた秘宝のせいで家族はバラバラ、人間不信におちいる、そんなの馬鹿げているよ」


 しばし、会場内に沈黙が流れた。


「その影でどうせ見てるんだろ? 麗子も龍次郎も出てこいよ」


 スクリーンの中から龍一郎がそう声をかけると、薄暗い柱の影から麗子と龍次郎が現れた。


「だから、アボカドの種はアボリジニーの人々に返そうと思う。これは次期当主としてもう決めたことで、すでにアボカドの種はオーストラリアに旅立った。虎次郎なら、きっとここまでたどり着くと思っていたよ。泥棒に奪われた秘宝を、泥棒返ししただけのこと。一時期我が家の持ち物だったってことだけさ」


「父さん……」


「明日の朝には虹表島へ行くから、昔みたいにまた海でシュノーケルでもしような」


 そう言って、金有龍一郎はスクリーンから姿を消した。

 嬉しそうに手を振りながら。


 こうして、アボカドの種強奪事件は無事に? 解決した。

 何が一番大切なのかを、そこにいるすべての人の心に刻み込んで。

 














 

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名探偵ヒカコと南の島で泥棒返し! 和響 @kazuchiai

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