最終話 旅立ち②
魔法学校を去った後、ユリはペンギンから人間の姿に戻っていた。白いペンギンモンペンの背中に乗り、徒歩のユーキとペン子と共に次の街へ向かっているところであった。
「結局、魔法学校で習得できたのはため息程度の風魔法と静電気だけでした…。」
「お前は雑魚だからな。分かりきっていたことだ。」
「むぎー!」
ユーキの容赦のない皮肉にむくれる。しかし、魔法を思うように習得できなくても魔法学校での経験は貴重で非常に楽しいものだった。自分はそう思うが肝心のユーキはどう思っているのだろう。
「ユーキは魔法学校、どうでした?」
「盛大にカオスだった。」
「他には?」
「別にない。」
ユーキの感想は驚きの短さだった。物事に興味関心が薄い彼の世界は魔法学校で賑やかな生活をした後も変わらなかったようだ。
「そうでしたか…失敗ですね…。」
ユリはモンペンの背中でため息を吐いた。
◆
(……失敗って何だ?)
ユーキは歩きながら考えていた。
まさか魔法学校に通いたい云々はユリ本人のためではなく自分に気を遣ったものだったというのか。
後ろにいるユリからは落ち込んでいるのかそれ以上の反応はない。つい普段の癖で皮肉が出てしまったが、正直魔法学校在学中は岩盤浴にも入れうまいものも食べれる等それなりに良いことがあった。何より毎晩ビールを飲むことができたという点では自分は十二分に満喫できていたと言えよう。
「せ、盛大にカオスではあったが……」
慣れない文句を言おうとしているためか言葉に詰まる。だが、自分を想っての行動だったのならばそれに配慮した言葉を多少なりとも伝えるべきだ。
「……お前となら、悪くない、と思う。」
思いの外、妙なことを口走った気がして少し後悔する。
後ろのユリからの反応はない。
「……なんとか言えよ。」
間に耐えきれず振り返った。
後ろで話を聞いていたのはユリではなく、黒いペンギンペン子であった。
道の端ではモンペンが蝶々を追いかけていた。ユリはモンペンの上に乗っていたためそれに付き合う形となっている。
ペン子がもぺっとした顔で口を開く。
--なんだ、もう話して良かったのか。それで、これから私は君のことを何と呼べばいい?間抜けとヘタレとノロマの中から選んでほしい。私のおすすめは全てだ。
「…そうだな。」
「少し考える時間をくれるか?すまんな間抜けでヘタレでノロマなものでな」と言い、ユーキはペン子の背中に馬乗りになり関節技キャメルクラッチを決める。ペン子は「ギューーーーー!ギューーーーー!」と悲鳴を上げ暴れた。
手を緩めることなく関節技を決めたまま、ユーキは深くため息を吐いた。
◆
その頃、勇者一行のリーダーエデンは近くの街の冒険団へ向かうところであった。
アヴァロンの王女シロナが上機嫌で片腕にしがみついている。
「ふふ。エデン様と憧れの旅ができるなんて光栄ですわ♪」
「シロナちゃん、僕らの旅に同行して大丈夫?アヴァロンの王女としての仕事があるんじゃないの?」
「ああ、それなら兄様がしばらく城に留まることになっているので大丈夫ですわ。」
シロナは満面な笑みで語る。グレイが執務に集中することになったため、シロナはしばらくの間自由に行動していいようだ。グレイからは結婚の知らせがあったきり音沙汰はない。手紙のことを思い浮かべているとふと違和感を覚えた。
「なんでだろ、なんかグレイが助けを求めてる気がする。」
「あ、エデン様、ご覧ください!街が見えてきましたよ!」
シロナがはしゃぎ、腕にさらに密着してきた。シロナの積極的な様子にグレイのことは頭から離れ胸がぎゅっと締め付けられた。
(うっ、なんだろ、急に胸が痛く…?)
胸を押さえているとくいっと後ろを軽く引かれる。
「エデン…。」
「マ、マイ?どうしたの?」
マイが今にも泣き出しそうな顔で上着の裾を弱々しく引いていた。普段の彼女らしからぬ仕草に胸がどきっと鳴る。
(これは、動悸?なんで急に…)
ムッとしたシロナが強い力で引っ張ってくる。マイの力はひどく弱々しいものであったが振り払えない何かがあった。
「エデン様、早くいきましょう!」
「エデンン…。」
何故かシロナとマイで胸の感覚が異なる。それにより、エデンはついに自分の内を悟ることとなった。
(そうか…これが『狭心症』なんだね。街に着いたらまずは病院に行かなきゃ。)
ボドーと猫アルマは妙に納得したようなエデンの顔を見て深いため息を吐いた。
(どうしてこう、うまくいかないのでしょう…)
(どうしてこう、うまくいかない…!)
(どうしてこう、うまくいかないんだ…?)
(にゃー!)
ユリ、ユーキ、ボドー、アルマがほぼ同時に嘆いていたことはお互い知る由もない。これからもユリ一行とエデン一行の器用で不器用な旅は続くのであった。
器用に、不器用に!〜魔法学校編〜 完
⭐︎あとがき
完結までお読みいただきありがとうございました。不慣れなギャグの外伝でありましたがとても楽しく書かせていただきました。ここまでお付き合いしてくださった皆様とキャラを貸してくれたひだまり氏のおかげです。
ユリ「ちょっと、ラブコメが全く進展してないのに完結ってどういうことですか?」
シロナ「私の方なんてさらに複雑なことになってんだけど。どうしてくれんのよ。」
少しでも楽しんで頂けたのならそれに勝る幸せはございません。この度は誠にありがとうございました!
ユリ、シロナ「おい、作者!」
器用に、不器用に!〜魔法学校編〜 もりすけ @morisuke77
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