雨雲

 空が曇りはじめ、それほど間を開けずにポツポツと、雨が降り始める。昨日の天気予報ではこの後も強くなる見込みと予報士が言っていたため、街ゆく人は皆、折り畳み、あるいはそうでない傘を広げ上から見ると実にカラフルで、鮮やかな花を咲かせる。振り始めた小雨は徐々に勢いを増す。放課後の中学校では天気予報を聞いていなかった勤勉な生徒が、図書室でため息をつきながら窓越しに空を見上げる。夕方先方に出向いていた会社員は雨と人込みのどちらも避けながら足早に本社へと戻る。みんな雨は嫌いだという、理由は様々あり、例えば”湿気が嫌いだ”とか、”雨が降っていること自体好きじゃない”だとか、中には”犬の散歩に行くのが嫌だ”なんて理由も挙げる人がいる。雲は徐々に厚みを増して、いよいよ本降りの様相を示し、多くの人は窓の外を見てため息をつく。


 しかし、人間とは面白いものでこんな雨を好きだと言う人も中にはいる。なぜ好きなのかはその人によってまちまちで、はっきりとした例を出すことはできない。が、好きという人間はこの勢いの真下雨の中を好んで歩いたりもする。部屋にこもりっきりの不登校の男児も雨の中、散歩に出かけた。彼らのように雨が好きな人間がいるから雨も降るのかもしれない、と思うのは私の勝手な思いだろうか。


 やがて雨は徐々に弱まり、次の日の昼頃にはところどころ晴れ間が見えるようになってきた。既に雨の上がった地域では虹も見える。ある森林では雨に濡れた木々たちが太陽の日を浴びてキラキラと輝いていた。そうした神秘的な光景を生み出す雨が通り過ぎ、晴れた空は、私たち人間に元気を与えてくれるのだ。

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