朗読用小説など

小雨(こあめ、小飴)

檸檬茶~二人の間~(リクエスト作品)

「あのー、せんぱーい」

 先輩は窓の外をボーっと眺めている、考え事をしているようにも見えないのでほんとにただ外を見ているだけだろう。

「先輩、せんぱーい!聞いてます?」

 私が声量を上げて聞くとようやく先輩はこちらを見る。先輩は横顔も素敵だが正面から真っすぐとみられて思わずドキっとする

「あ、あぁごめんえっとなんだっけ」

 ここは先輩のクラスの教室、先輩と私以外は放課後なのですでにいない。私も部活があるが先輩は今日部活がないことを聞いていたので抜け出して会いに来たのだ。

「もー…次の期末考査に向けて勉強教えて下しって言ったんですよ!わざわざ部活抜け出して相談に来てるのにひどくないですか⁉」

「いやちゃんと部活出ろよ…」

 先輩は半分呆れたような顔で言う。過去に『友達と出かけるから休みます』と言って堂々と学校終わりに嘘をついて帰ったことのある人とは思えない。

「そういうのじゃなくて……っあぁあもお!とにかく!勉強教えてほしいんです!」

 ようやく本題を投げかける。教室に突撃したはいいもの扉を開けた時先輩はあろうことか寝ていたのだ。なので先輩が起きて目が覚めるまで待っていたのだ。

「教えるのはいいけどお前俺よりも順位高くなかったっけ?」

 などと言ってくるが私は過去にクラス最下位というとても自慢できない称号を授かったことがある。その後も最下位につかないまでも下から数えた方が限りなく早かった。

「…先輩のそういうとこ嫌いです。学年首位の言葉とは思えないです」

 そう、何を隠そう先輩は中学からの付き合いだが、その頃から成績優秀で高校に入ってからは常に学年トップを維持し続けている。先輩の後を追って入ったはいいが私自身はレベルの差で勉強に追いつけず成績が伸び悩んでいた。先輩は悪びれもせずにボケ続ける。

「悪かったって…で、なんだっけ?山田先生が授業で居眠りする話だっけ」

 突然自分の部活の顧問の話題が出てきて一瞬話が引っ張られる。午後の授業だと特に居眠りすることがあるようだ。普段バレー部で指導している姿からは全く想像できなかった。

「え、うちの顧問そんなことするんですか…じゃなくて!」

「はいはい、どの教科をやる?生物とか?あ、世界史だな?」

 顧問の話題に加え教えてほしいといったべんきゅ王の話までそらし始めた。相変わらず悪びれる様子はなく、完全にこちらをからかいに来ている。生物と世界史に関してはトップ層とまではいかないが中間よりも少し上にはいる。

「中間考査の結果見せましたよね先輩、また私で遊んでますよね?」

 いい加減やらないと勉強する時間が無くなる。と思いいい加減にしてくださいという思いを込めて聞く。

「そんなことないよー英語だっけ?苦手なの」

 やっとだ。ため息をつきながら話を進める。

「わかってるならボケないでくださいよ……とりあえず今回の範囲が知覚動詞ってところで先生が対策問題を作ったので一緒に解説つけて解くの手伝ってほしいんですけど……ってなんで固まってるんですか?」

「……っスー、、いやぁなんだったっけなぁ知覚動詞ってって思ってさ」

 思わず絶句してしまった。ここの範囲は去年散々あおられたから聞こうと思っていたのに、

「え、嘘ですよね?去年1学期期末考査100点だってドヤ顔で見せてきたのは誰ですか!」

「いやあ誰だろうなーそんな奴がいるのかぁ」

「ちょっともうボケはいらないんですけど!!」

「いや、ごめん、マジでわかんない」

「えぇ……」

 そうだった、先輩は頭はいいのに勉強が嫌いなんだった。そういうところも好きなのだが、でも覚えてないからと言われてももう来てしまったものはしょうがない、

「と、とりあえずやってたら思い出しますよたぶん!やりましょ!ね!」

「お、おう…そうだな」


~40分後~


 英語担当の先生の作った対策問題を解きながらどうしてもわからないところは先輩に聞きながらやる。英語の先生に無理を言って英語の教科書とほぼ同等量の厚みで対策問題を作ってもらったのでそれをわんこそばのごとく解いていく。

「……先輩次の問題お願いします!」

 問題用紙から顔を上げるとだるそうにしている、

「いやちょっと休憩しようよ~疲れたっていうかさ~」

「10分前に休憩したじゃないですか!それにまだ始めてから40分くらいなんですけど⁉」

 いくら先輩が勉強が嫌いとはいえ20分ごとに休憩なんてしてたらこの量は終わらない、が次の先輩の口から飛び出た言葉によって私は凍り付くことになる。

「かなと居ると早く疲れるんだよ~」

「えっ…そ、そうなんですか?」

 動揺が隠せない、好きな人に実質ウザいと言われてるのと同じだ。

「うんまぁ結構ぐいぐい来るからさ…そもそもここ3年の教室なのに突ってきて僕しかいないのを確認してからいきなり大声で『先輩いますか!』って言うしさ、のんびり生きてる僕には眩しいっていうか」

 なにもことばがでてこない、今すぐにも逃げ出したくなった。

「……休憩しましょうか」

「え?やるんじゃなかったの?」

 頭をかしげる先輩、

「いえ、先輩が休憩したいっておっしゃっていたので、それに詰めすぎもよくないかなと…はい」

「なんでそんなにかしこまってんの?」

 敬語がガチガチになっているところをツッコまれ余計に逃げ出したくなる。

「いえ、何でもないです…ちょ、ちょっと自販機行ってきます!」

「え?あ、うん……」

 先輩を置き去りにし足早に自販機に向かった。


~3分後~

「戻りました、ってあれ?先輩いない…」

 かばんはあるのでっ帰ったわけではないようだ。座っていた位置に戻り買ってきたリンゴジュースを飲む。

「はぁ……嫌われてるのかな…私」

 そんな独り言を言っていると比較的勢いよく扉が開く。

「ただいまぁ(扉が開く)あれ?なんで小さくなってるの?」

 扉の開く音にびっくりし椅子の上で飛び上がってしまい先輩に見られ少し恥ずかしく思うが先輩でよかったとも思う。

「いえ!大丈夫です!あ、これ先輩の分です。」

「お、レモンティーじゃーんありがとう!」

 先輩が中学の時から好きなレモンティーをかってきた。学校の自販機の中身の入れ替えが昼に行われ、レモンティーの大きいペットボトルが入荷していたのを事前に見ていたのだ。

「大丈夫ですよ~そういえばどこに行ってたんですか?」

 そう聞くと先輩は笑いながら説明してくれる。

「いやちょっと用事を思い出してね…先生に呼ばれてたの思い出したからね」

 選択芸術の先生に呼ばれていたのをすっぽかしていたらしい。幸いなことにその先生はとても温厚な先生なので特に怒られはしなかったそうだ。

「そうなんですね。はぁ…先輩は好きな人とかいなさそうですよね」

「なんだよ急に、そういうかなはどうなんだよ。人に聞く前に自分からだろ」

 勉強じゃないことに関してはものすごく正論を突きつけてくる。先輩は勉強以外はものすごくまじめなのだ。勉強以外は、

「なんでそういうところだけ真面目なんですか……まぁいますよ」

「以外!どんな人なの?教えてよ」

 中学校の修学旅行の夜に同級生の女子と夜に布団に入ってそんな話をしたなと思いながら突っ込みを入れる。

「先輩は女子ですか、まぁ…とっても鈍感な人ですよ、その人は。本人の前で悪口行っちゃうようなくらいには鈍感です」

 そう教えると先輩は少しむっとする。

「なんだそいつ最低だな!ゆるせねぇ」

 まさか自分のことだなんて思ってないんだろうなと思う、でもそんなことは重要ではない。問題は先輩に好きな人がいるかだ。

「……まぁそんな感じです。私は言いましたよ、先輩はど、どうなんですか」

「ん?ん~……どうだとおもう?」

 レモンティーを飲みながら聞いてくるあたり真面目に答える気があるのかどうかわからない。

「教えてくれないんですか⁉」

 そう聞くと先輩はなぜか飲んでたものを吹き出しそうになる。”檸檬茶”というロゴの入ったラベルが激しく揺れる。少しむせた後に先輩は言葉をつづけた。

「いやそうじゃなくてさ、どう思う?俺に好きな人がいると思う?」

 聞かれて考えてみると答えに困る。本心としてはいてほしくないがストレートには言えないので少しばかり言葉をひねる。

「……っそうですね、いなさそうに見えますけど…正直頼りないですし、先輩の気持ちが知りたいですね」

「いるよ」

「え⁉あの先輩に⁉」

 驚きすぎて机をガタンと揺らして勢いよく立ち上がる。先輩は少しうなだれる、

「そんなに驚く?そんなに頼れないかなぁ」

「頼りないって自覚はあったんですね……驚きです」

「酷くない?……まぁいいや好きな子はいるよ、後輩に」

「後輩!?学年は⁉」

 思わず食い気味に聞く。先輩の同級生であればまだ理解できたのだが、後輩は完全に予想外だった。

「2年」

「私と同じ学年……クラスはどこですか?」

 同学年となると余計に気になる。

「いやBだけども?」

「それは……」

「そう、かなのクラスだね」

 好きな人がそう言っているせいでどんどん焦りが募る。

「…先輩、だれですかゆえちゃんですか?それともみなみちゃんですか?……まさか男の子とか……⁉」

「そんなわけないでしょうが、ちゃんと女の子が好きだよ」

 よかった、女の子が好きで、いや男が好きでもワンチャン……いや、やめておこう

「じゃ、じゃあだれですか、誰なんですか!」

「そうだねヒントあげようか、名前のイニシャルがKで始まる子」

「K…K?それって」

 2年B組はイニシャルがKは私以外にいなかったはずだ、だがその事実を頭が受け入れることがすぐにはできなかった。

「おっと、帰らなきゃだよ帰ろ」

 頭の理解が追い付かないうちに先輩はそそくさと帰り支度をし椅子から立ち上がる。

「ちょっと!まだ答えが、ちょっとー!」

 慌てて先輩を追いかける。二人の間まだすこし縮まらないようだ。

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