線香花火

 パチパチと燃える。神社の境内の隅で花火をする人の集団、いや、別に勝手に花火をしているわけではない。管理者に許可をとって境内を汚さない細心の注意をはらってやっている。男女それぞれ3人。彼らの背後の大佐田川では年一回の大花火大会が開かれており、神社の階段の下から川の方にかけての通路は出店で埋め尽くされていた。

「もうすぐ終わりだね」

 一人の女の子がつぶやく。花火大会は連続1000発連続発射を始めていた。バチバチと激しい音と閃光、そしてきれいな色とりどりに輝いている。っそんな花火を横目に彼らは花火を袋から取り出す。こちらもほとんど中身がなく、全員でできるのは線香花火だけとなった。

「じゃあこれ最後まで続いたやつが好きなやつに告白な!」

 一番いかにも”陽キャ”な雰囲気を醸し出している青年はそう言ってマッチを取り出す。元々今日はそういう約束だった。この集団で遊びに行くのはすでに100回を超え、お互いの好き嫌いも手に取るようにわかる。

 せーので火をつける。開始5秒で陽キャ雰囲気の春来の花火が落ちた。水に落ちてジュワッと音を立てて消え、沈んでいった。

「おいおいまじかよ⁉」

「はっはっは! お前案だけ散々強調してたのに一番に落ちるのかよ!」

「うるせーよ陽菜乃!」

 陽菜乃と言われたボーイッシュな女の子は爆笑しながら春来を馬鹿にする。しかし、その笑いの振動でパチパチと音を立てていた玉は水へと没した。

「陽菜乃も変わんないじゃん。春来のこと馬鹿にできないね」

「もう! 夏輝はうるさいうるさい! おら!おとせ!」

「ちょっとやめてって…あっ」

 少し女々しい青年の夏輝の線香花火が水にぽちゃんと落ちる。

「あ、あたしのせいじゃねーしー」

 口笛を吹きながらそっぽを向く陽菜乃。

「線香花火は静かにやるものですよ。…あら、落ちちゃいました」

 誰も見てない間に優華の線香花火は落ちていた。残ったのは無口で地味な男女1ずつ。一人は春来の幼馴染のひかり、もう一人は優華の幼馴染の太一、どちらの線香花火も落ちそうで落ちないのがハラハラさせる。

「「あ」」

 二人の花火が同時に水へ水没する。結果は春来、陽菜乃、夏輝、優華、そしてひかりと太一の同時となった。

「同時は考えてなかったな……」

「せーので指さすか!」

 ひかりと太一は無言で頷く。

「「せーの!」」

 さした指はひかりは太一、太一はひかりとなっていた。

「りょ、両想い……」

 二人の顔が赤くなる。何せ二人とも恋愛したことないイコール年齢なのだ。

「ちょっと席を外すわね、お手洗いに……」

 そう言って優華が席を外した。

「お、俺らも出店終わる前に買いに行ってくるわ!」

 残りの3人も席を外してしまった。無言が打ち上げ終わった空間に広がる。遠くで祭りの騒がしさがあったが二人の耳には届かなかった。太一が勇気を振り絞る。

「あのさ……!」

 そこまで言ったことで口をふさがれ、それがひかりの唇だと認識するのに少し時間がかかった。初めてのキスは柑橘の香りがした。

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