向日葵畑で君を待つ

※この小説はフィクションであり、現実の団体や国、人には一切関係ありません


 暑い夏の日、今日は38度を超える猛暑日だとラジオの天気予報で言っていた。そんな炎天下の中、私は向日葵畑にいる、正確には向日葵畑だったところだ。ここにはつい最近までたくさんの、それこそ視界が向日葵で埋め尽くされ、一度中に足を踏み入れたら外には出られないのではないか、そう思わせるほどの向日葵が咲いていたのだ。しかし、今は一輪も見ることはできない、見えるのは真っ黒に焼け焦げた平たい土地だ。ここの土地は私が面倒を見ていた向日葵が咲いていた。が、ここは私の所有物ではない、私の父の持っている土地、そして私たち家族の大切な向日葵のための土地だった。


 私たち家族の住んでいた国は、列強の各国に煽られるがままに戦争に身を投じた。戦争の最初こそ勝ち続けたものの、孤立した1国に対しあちらは複数。こちらの何倍もの戦力押され、ひとつ、また一つと領土を失っていった。敗走に敗走を重ね、都市も破壊され、経戦能力がなくなり、条約を結んで戦争は終結し、今日、戦争に出ていた兵隊が帰ってくる。


 戦争の情勢が不利に傾くにつれ、もともといた兵隊は傷つき、死んでいき、まず20歳以上の男子が徴兵され、村から力仕事のできる若者がいなくなった。私の兄もその一人だった、そして戦場にでていった数日後に帰ってきた。紙切れと私の編んだお守りになって。兄は戦車という人の何倍も大きく、銃の何十倍も威力のあるものを備えた恐ろしい兵器の弾が直撃し、残ったものがお守りだったそうだ。つい数日前までペンを握っていたものが、使い方もわからぬ銃を持ち、わけもわからずに突っ走っては銃弾に倒れる。そして兵士がたりなくなり、再び徴兵が始まる。今度は年齢が一定を超えた中年などと呼ばれる男性が徴兵された。私の父もその徴兵の対象となった。

その時に父は私に、

「向日葵畑を頼んだよ、あそこはとても大事な場所なんだ。父さんが帰ってくるまでお世話をしてほしい、頼まれてくれるかな?父さんが帰ってきたらそこで会おう。」

そう言われた私は、

「うん!約束!」

と、返事をした。それを聞いた父は、

「そうか、じゃあもう一つ約束してくれ…」

しかし、そのあとに父の言った言葉が何だったか、今も思い出せない。父が死んだという話も聞かない、かといって帰ってきてもいない。なので答えを確かめることもいまだできていない。

  終戦間際にこの地域一帯は爆撃で火の海にのまれた。母も妹もはぐれてしまい、その時にこの畑も全焼してしまった…降り注ぐ爆弾の雨から逃げる最中にはぐれた二人は、先ほど変わり果ててしまった姿を病院で確認し、見送ってきたところだった。そして今、私は帰ってくるかもわからない父をこの向日葵畑で待っていた。


「お父さん、私守れなかったよ…。」

 そう呟いた。天気予報にはなかった雨が私の頬をつたう。

「…そうだなぁ確かに向日葵は燃えた、でもお前は生きている。二つ目の約束はちゃんと守られているじゃないか。」

 ふいにとても懐かしく優しい声が背後から聞こえ、ゆっくりと振り返る。



そこには…

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