ドキドキ時計

ドク、ドク、ドクと時を刻む心臓。時計が夜10時を回り、就寝の準備のために刻むペースがゆっくりになる。ドク…ドク…ドクと、心臓の持ち主は彼女と同居している。いつもは違う部屋で寝ているのだが、今日はどうやら一緒に寝たいらしく、彼の布団にダイブしてきた。

 ドクドクドクドクと刻む針のペースが一気に早くなる。寝る前なのに時計は秒針を早めに早め、すっかり朝方の気分になっていた。もちろん寝れるわけがない。真横ですやすや寝息を立てている彼女がうらやましいくらいだ。あまりにも快眠そうだったので思い切り抱きついてみる。一瞬びくっと反射的に動いたが起きることはなかった。彼女の背中に顔を当てる。ドクドクドクと自分ほどではないが彼女の時計も早い時間をきざんでいる。自分だけじゃないという安心感からか、心臓の刻む時刻の針はゆっくりになっていった。チクタクチクタクと壁にかけてある時計の音が聞こえる。

 

 ボーンボーン


 時計は2時になったことを告げる。彼もゆっくりと目を閉じ、眠りについた。

朝、彼女にたたき起こされた。心臓の時計は何とか調整を重ねて現在の時刻と同じくらいを保っている。朝ご飯が冷めるからと言ってせかす彼女。あくびをしながら朝食を食べ、テレビでニュースを見ながら着替えて会社へ行く支度をする。

 行ってきますの後には必ず彼女はほっぺたにキスをする。そのたびに心臓はドクドクと、鼓動を刻んだ。


 会社へ着くと早速仕事が回ってくる。主に書類の誤字脱字の校正や、今やっている”空飛ぶ車”の実証実験の計画書のまとめだ。自分がリーダーになって進めているのもあって心臓も気分よく、ドックン、ドックンと揺れるように針を刻む。実際に人が乗る予定の空飛ぶ車を飛ばす”飛行実験”にも参加した。自分のやっているものが実際に飛んでいるのを見るとなんて気分がいいのだろうか。

 しかし、仕事というのは楽しいだけではない。課長はよく持ち主の事を目の敵にして説教する。自分が出向している間にあげた成果をよく思っていないのだ。社内でも目上にはごまをすりつつ、自分より下の者は嫌味やセクハラをする典型的な嫌な上司だ。今日も一時間くらい仕事の時間を説教にもっていかれた。おかげでその一時間は残業だ。心臓の針もへにゃっとなりながら時を刻む。ようやく終わり帰路につく。

 足早に家に帰り、ドアを開ける。玄関の中に入って扉を閉めた瞬間彼女が飛びついてくる。まるで待ちに待った再開、いや、いい意味で犬みたいな行動だ。少なくとも持ち主がうれしく感じているのでさっきまでやる気のなかった心臓の時計の針がピンと張る。夕飯とお風呂お選択肢に出され、とりあえずお風呂に入ることにした。一日の疲れを抜き、ニュースを見ながら夕飯を食べる。彼女は大学院で勉強をしている。食べている今も英語の参考書を片手に持っている。

 食べ終わって一日が終わり、布団にもぐる。ドク、ドク、ドク、と、心臓は今日も時を刻んでいくのだった。

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朗読用小説など 小雨(こあめ、小飴) @coame_syousetu

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