第三話 死の家の記録

 すぐさま屋上から中庭にかけつけると、教師やら学園内の職員、生徒らが集まって人だかりができていた。

 結華は死んだのだろうか。

 屋上から飛び降りて。

 死。

 無定形なこの概念は、人がこの世に生誕してから付きまとう、いわば呪いだ。無定形のまま概念として死んだまま、或いは生まれもしない存在は死すら理解できない。しかし、僕らは生誕してしまった。死を経験するために、生を与えられてしまった。

 飛び降りだって。やだ。あたし、死体見るの初めて。中庭の花壇の杭が頭部を貫通だって。いやだいやだ。

 屋上で会ったばかりの少女――鏡結華は死んだのか。

 人だかりの合間から担架に乗せられ、運び出される結華がちらりと見えた。その頭部には、片目がなかった。

「ほらあ、寮に戻れ。補習の学生は所定の教室で待機するように」、教師が呼び掛ける。

 ……結華は森に行って死んだんだよ。

 誰かが噂する。

 ……結華は見てはいけないものを見たんだ。

 僕は何故か突き動かされる衝動に耐えかねて、その場から走り出していた。

 湿地帯を抜け、学園の外部に広がる森林地帯へ。車窓から見えた、木々の網の内側へ。

 しかし、三時間程、森をうろつく羽目になっただけで、結華の死亡原因はわからなかった。

 ただ木々だけが、人には判らない会話を続けていた。

 学園の中庭に戻ると、既に結華の飛び降りの痕跡は消えていた。

「――アイリさん」

  不意に声をかけられ、顔をあげると、綾森澪がいた。列車内で同席した少女だ。

「澪……」

「助けて、……欲しいんです」


 (第三話 了 20250408)

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感光樹に祈りを与え捧げよ 宮下協義 @ykz1986

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