想像力の羽ばたきが力強く、面白い!

10話まで拝読したレビューになります。

紀元前630年頃の古代中国史を舞台に繰り広げられる人間ドラマが魅力的な本作。

主人公は晋国の君主である重耳と敵対し死没した郤氏の息子、郤缺。蹂躙を逃れるため貴族から没落し農民として質素に暮らしていたが、貴人としての礼節を忘れることはなかった。ある日、その姿を重耳の重心に見初められ「私が君公にお前を許すように言ってやるから戻ってこい」(めちゃくちゃ私訳)と言われて、再び戦と政の動乱に身を置くようになる。

君主に尽くすのか国に尽くすのか。晋の未来を憂う臣家たちそれぞれの立場が物語を動かしていきます。

中国史はまったくの初心者なので、馴染みのない言い回しや国名などを噛み砕きながら読み進めるのに少し時間はかかりましたが、慣れてくればサクサク読めました。合間にはさまる現代風な台詞や地の文もシャレが効いてて面白いです。きっと知識がある方ならもっと楽しんで没入できるはず!本来は脇役の郤缺に焦点を当てて作者様の想像力で描いたストーリーということですが、史実の厚みと作者様の解像度の高さで違和感なく、むしろ人間味増し増しで面白い内容になっています!

そして郤缺を囲む人物たちも個性豊か。タグにBLとありますが、これも不思議なことに「愛はないけど情はある」という印象の、しっとりとした描写になっております。郤缺に情婦という仮衣を着せて抱く権力者おじさん欒枝、食えなくて好きですね。郤缺の息子を弟にしたい士会もさっぱりとしていて好印象。人間味を感じるキャラクターたちとそれを生かす描写力。圧巻です。

最初は少し敷居が高く感じるかもしれない。だけどそこには私たちに馴染みのある人間ドラマが芽吹いています。ぜひご一読ください!

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