思わぬ展開が終盤に待ち受ける、少年少女の青春恋愛物語

たった一人しか部員がいない文芸部に所属する高校生『夜山千寿』。しかし2年の春に『谷口志希』が入部してきて、彼の孤独は打ち破られる。志希にせがまれ、詩だけではなく小説も書くようになり、二人きりの部活で交流を深めていくが――。

青春恋愛短編として綺麗にまとまっており、起承転結もキッチリ付けられている印象でした。読みやすい文体でスラスラ進み、『作中作』とも呼べる千寿や志希の書いた小説が、物語において効果的な役割を果たしているのも好印象です。
そして終盤になると「まぁ、二人は実はこういう関係なんだろうな……」と予想していた展開が的中しつつ、そこから更に二転三転と『秘密』が隠されていた部分に、驚きと面白さを感じました。
記憶を取り戻して結ばれてハッピーエンド、ではなく切なさやホロ苦さが含まれたラストも、予想外のオチであり強く印象に残りました。

ただ、その隠された秘密である『死者』や『天界の住人』といった要素がちょっと唐突に出てきた感じがあって、人によっては急展開に見えるかもしれません。
なので、部活動をしている千寿と志希の所に顧問や他生徒が顔を出すけど、志希を認識せずに千寿とだけ会話するとか、電車に乗り込む場面や乗っている時に志希のことは誰も注目しない……等といった伏線がもう少しあれば、唐突感を減らせたと思います。
加えて、短編であるため難しい『配分』となりますが……クライマックスで千寿が志希へ想いを伝えるシーンにおいても、それまでの『積み重ね』がやや足りていなかったかなと思います。忘れていた大事な幼馴染を思い出し、深い愛情を抱いて熱い告白をするのは千寿視点からすれば当然ですが、読者からすると「いつの間にそんなベタ惚れしたの?」と見えるかもしれません。
ですので文芸部での交流シーンにおいても、絆を深めたり異性として意識する描写がもっと欲しかったです。例えば電車内で首の汗を拭くシーンとか、そういう何気ない仕草にドキッとしてしまう描写を入れられるチャンスなのに、日常風景としてアッサリ流していたのは非常に勿体ないと感じました。

とはいえ、先にも述べた通り起承転結としては見事に完成しており、意外性のあるオチ『転』や『結』の部分においては、読者を惹き付けるのは間違いないと思います。
あとは『展開に説得力を生み出す描写』の補強といった、転や結に繋がる『承』の要素を詰めていけば、更に完成度の高い作品になると思いました。

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