第4話 六七八事件
第二部 2010年
絵里と、双子の空と陸が
京介は、経営者としての手腕はさらに冴え、不動産業でありながらバブル崩壊やリーマンショックをうまくかわし、建設業へも手を伸ばし、会社はさらに大きくなっていた。
妻の
空と陸と、咲弥が産んだ
京介と本当に血がつながっているのは、空だけだという事実を隠されたままに。
「陸ニィ待ってよー。私も一緒に連れてってよ」
「優子。今日の大学の授業は午後からじゃなかったのか?」
「そうだよ。でもいいの。私、陸ニィの運転する車の助手席が好きだから」
「優子が車に乗ると燃費が悪くなるんだけどな。まあいいや来いよ」
「もー。ちょっとそれどういう意味よー。いじわるー」
二人は笑いながら家を出て、父の京介に買ってもらったGT-Rで、共に通う国立大学へ向かった。
一方、リビングに残った京介と空の親子関係はうまくいっていなかった。
「空。お前も行かなくていいのか?」
「オレはあいつらの大学と違って、親父のコネで入った私立大学だから、どうせ行かなくてもコネで卒業できるっしょ」
「親に向かってなんという口の利き方だ。まったく。お前も将来は権厳寺グループを引っ張っていく存在になるんだぞ。しっかりしろ」
「オレはそういうのいいよ。陸に全部まかせるわ。あいつの方が優秀だし」
京介は密かに、自分の跡継ぎは空にしたいと考えていたが、その期待とは裏腹に、陸の方が優秀に育ってしまっていることに、歯がゆさを感じていた。
優子は大学に着き、午後からの授業に備えて大学の図書館で勉強をしていた。
専攻していた社会学の課題で、過去の事件をまとめるため、古い新聞紙を借りて記事を読んでいた時に、それを見つけてしまった。
………………
1989年5月3日午後1時半ごろ、環状八号線交差点で、自転車に乗って横断歩道を渡っていた会社役員男性(34)が、会社員女性(45)のダンプカーにはねられた。はねられた男性は大けがで都内の病院に搬送された。警察はダンプカーを運転していた会社員、六車七美(むぐるま・ななみ)容疑者(45)を過失運転傷害の疑いで現行犯逮捕しました。
………………
この時、優子は父の京介から、『名前に六と七が付く人に、
その日の夕食は、めずらしく権厳寺家の6人がそろって食卓を囲んでいた。
食事が終わりに差し掛かり、絵里が焼いたアップルパイをデザートとして切り分けていた時、優子がカバンから記事のコピーを取り出した。
「これ、パパの事でしょ?この事故で子供を作れない体になっちゃったんだよね。どうして私が産まれる2年前に事故が起きたことになってるの?説明してよ」
京介と咲弥と絵里は顔を見合わせてお互いの出方を伺うと、京介が話し始めた。
「本当はお前が大学を卒業してから話そうと思っていたんだが、、、」
咲弥はとっさに止めようとした「ちょっと!あなた!」
「いいんだ咲弥。この子ももう立派な大人だ。きっとわかってくれるはずだから話すよ」
こうして優子と空と陸は、『優子は第三者からの精子提供により人工授精で産まれてきた』といういきさつを聞かされた。
空と陸の件は隠されたままに。
優子は予想だにしていなかった出生の秘密を知り、泣きながらリビングを飛び出して自分の部屋へ向かうと、陸がその後を追った。
「わ、私、パパだけじゃなく、空ニィ陸ニィと血が繋がっていなかったなんて、、、ううぅ」
「僕も驚いたよ、今まで隠していたなんてあんまりだよな。でも安心しろ。お前はこれからもずっと俺たちが守ってやるからな。優子は大切な大切な妹だからな」
「ありがとう、、、陸ニィ、、、ううぅ」
優子は泣き疲れ、時間が経ち現実と向き合うにつれ、陸と血がつながっていないことに、不思議と喜びを感じはじめていた。
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