【付記】カラヴィスにて保護された青年について

 一通りの調査を終え、私が魔法都市カラヴィスに戻ったのは半月後のことだった。街に足を踏み入れるなり見知った顔が駆け寄ってきた。慌てた様子のその男に乞われて街外れの宿屋を訪れると、一人の青年が寝台の上でぐったりとしていた。暗赤色の髪の青年はひどく顔色が悪く高熱を発しており、脈も呼吸も大きく乱れていた。だが、外傷などはなかったので、ひとまずは鎮静剤を投与すると一旦は落ち着いたようだった。

 宿屋の主人によると、何と彼はダレンアールの出身だという。私が村で会った顔ぶれの中にはいなかったから、例の旅人と共に行方がわからなくなっていた青年である可能性が高い。

 目を覚ましたら話を聞きたいと宿屋の主人に伝えておいたのだが、ついぞそれは叶わなかった。青年は意識を取り戻すなり、すぐに行方をくらませてしまったのだ。

 彼は、介抱していた宿屋の主人に次のような言葉を残していた。


『俺は、何があってもイクスを殺す。俺が招いてしまった災厄を』


 イクス・アルディオス。強大な力を持つ精霊の四氏族の一つの長である。

 優秀な研究者であったが、数々の禁忌の実験を行い、禁呪を生み出した咎により、カラヴィスから永久追放されていた。


 急ぎイェネスハイムの長老会議に青い鳥しらせを送ったが、あれから三月経った今も二人の行方はようとして知れない。

 もう一つ気がかりがある。私がカラヴィスで青年と出会う数日前、ここからそう遠くない北の山、最後の黒狼の里が極彩色の炎によって焼き尽くされた。たった一人の生存者を残して。


 その件と彼らが関係があるのかも、未だ不明のままである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

北の深淵、その最奥に眠るもの 橘 紀里 @kiri_tachibana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ