【1シチュエーションノベル】狐神に堕落させられる僕に、逃げ場はない【ヤンデレ】

つづり

狐神に堕落させられる僕に、逃げ場はない

 おお、主よ、一人でテレビを見てたのか?


 わしも一緒に見るのじゃ……となり、ええかの?


 ふふ、ありがとうなのじゃー、お主の隣なのじゃ


 んん? そりゃ、嬉しいに決まってるじゃろ……おかしいことを言うのう?


 主は、わしとずっと一緒なのじゃ


 そう言って、狐耳の女性が無邪気に僕の肩に、頭をこすりつけてくる。

 一週間前、僕は【あやかし彼女】というものを買った。ガチャポンのカプセルようなものを開けると、彼女役をやってくれるアヤカシが出てくる、というものだ。僕は狐神の女性を彼女にした。


 そうかぁ……仕事が忙しいのかぁ、大変じゃのう。どうやったら、楽になるのじゃ、わしは、主を楽にしたいのじゃ


 えくせる……わーど? うーむ、聞き慣れない……主の仕事は難しい言葉ばかりがでてくるのう。


 わしに出来るのは、こうしてそばに、ずっと一緒にいるだけじゃ。


 ふふふ……いい匂いがするじゃろ、お主のために用意したのじゃ


 お主の嫌なことを忘れられるようにな


 彼女は僕の耳に息を吹きかける。どきりとする。

 ぎゅっと心臓を掴まれるうような‥…僕は愛想笑いをした。


 む、何故わらうのじゃ


 ふむ、ドキドキしてしまうと……わしは良いのじゃよ、時間なんぞ気にしなくていいじゃろ……わしの身体はどこもかしこも、やわらかいぞ……


 主は、わしの啼き声は大好きじゃったな


 僕はあわあわとした。

たしかに彼女の言うとおりだ。

 ……彼女は【恋人】だから、そういうことにもなった。だけど昼間っから、僕が狼みたいに襲うのも、ためらわれる。

 なんせ、彼女の期限は今日までなのだ……へんな名残を残したくもない……

 【あやかし彼女】の説明書きで、一週間後に消えるとなっていた。


 なんじゃなんじゃ、ノリがわるいのう


 謝らなくていいんじゃぞ……謝ってほしいわけじゃないのだ


 わしはその、一途なのじゃよ……


 ……狐神は嫉妬深いといわれたりするのだが、それは本当でな……相手のことを愛しすぎて、骨まで愛せてしまうのだ


 だからよそ見を嫌う、その可能性すら……殺したくなってくる


 あはは、怖がりすぎじゃろ、面白すぎじゃ


 わしは主の色んなの顔を見るのが好きじゃのう


 瞳で感情がわかりやすいのだ……キレイな瞳じゃ、ごまかしがない


 彼女はぎゅっと僕を抱きしめた。

柔らかい……身を預けてしまいたくなるような、温もりだ。

 彼女は僕の耳元で囁いた。


 主の望みはなんじゃ


 そう、どうしたいとかあるじゃろ、一つくらい。大層な欲望でなくても……何でも良いのじゃ


 僕は彼女の問いに、静かに答えていた。

 生きるために仕方がないとわかっているが、辛いこと。


 ……そうか、そうか。仕事がつらいのじゃな……主は毎日頑張っておるしなぁ……この間は夜中に帰ってきたな、とても疲れて、顔色も悪くて……


 主は頑張ってて、報われなければならぬ……褒められてしかるべきものじゃ、なあ、わし以外におるか? 

 お主をいたわり、尊重するものが……


 あまりに優しい声で聞かれる。

 こんな優しい声で、いたわってくれた人が、いただろうか。

 目から、熱いものがこぼれた。


 いいのじゃいいのじゃ、そんな止めようとしなくても


 泣いてもいいのじゃよ……主を泣くのをとがめるものがいたら、わしが許さんのじゃ


 彼女は背筋を正し、僕の額に口づけた。


 わしは主を愛している……愛するということがどういうことかわかるか? 


 主を信じ、守ることじゃ


 主をもう、苦しませたくない……苦しむものを遠ざけたい


 彼女の言葉は胸に染み入る。

けれど明日が来れば、仕事もあるし、彼女も、消えてしまう。


 ……なあ……主よ……わしが消えるとか、考えておるな


 何故そんなに驚いておるのじゃ、わしは狐といえど神じゃ……神が人の心を読んで何がおかしいのじゃ……


 わしはな、本気なのじゃ。主を救いたい、愛したい、骨の髄まで……


 彼女の香りがひときわ強くなった。頭がぐらりと揺れる。めまいが止まらない。


 愛してるぞ……主もわしを愛しておろう? 


 その言葉を言えば、主は救われるのじゃ


 永遠に狂うほどに愛そうぞ


 いけない……と直感で察した。僕を抱きしめる、この腕を振り払わなければいけない……けれど彼女の言葉は甘美で、どんな堕落も許してくれそうで……僕は脱力した。


 そんな小声では聴こえないのじゃ……もっとしっかり言ってほしいのじゃ……わしとそなたは、もう離れられない仲なのだから


 愛おしい人、ああ、食べてしまいたいほど、かわいいひとじゃ……主、そんなに震えなくていいのじゃ……わしは主が大好きなだけじゃ……そうじゃ、ゆっくり息を吐いて……


 わしに誓約するのじゃ……神にたてた誓約は永遠に解かれぬ……けれど、わしのことを自由に出来るのじゃよ、心も肢体(からだ)も……


 妖艶な囁きに、僕の何かは壊れる……

 

 そうか……そうか


 良い子じゃ‥…その誓約を確かに聞き届けた


 主はわしの愛しきもの、魂も離さないのじゃ……さぁ、愛し合おうぞ……もう主は我らあやかしの世界の住人……


 僕の姿が消えていく……ああ、そうか……彼女ではなく、僕が、この世から消えていくのか……彼女は僕を首筋に、愛を刻むように、噛み付いた。


 ああ……わしは、幸せものじゃ

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【1シチュエーションノベル】狐神に堕落させられる僕に、逃げ場はない【ヤンデレ】 つづり @hujiiroame

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