路地裏の天使

高岩 沙由

僕と少女

 何か体にぶつかった気がして、僕は目を覚ます。


 目を薄く開けると最初に青空が見えた。

 少しずつ目を開けていくと、軒を連ねる家が見えてくるが見覚えのない風景に、僕は戸惑いを覚える。


 ここはどこだろう?


「目が覚めたぁ?」


 僕の疑問をかき消すような間延びした少女の声が聞こえてきた。

 同時に僕の顔を覗き込む視線にぶつかり、慌てて起き上がる。


「ここはっ!?」


 上半身を起こした時、全身に痛みが走り、倒れそうになるが両手を後ろ手につき体を支えるとあたりを見回す。


 人が2人並ぶとすれ違えないほどの細い道、わずかな風にのり、軒先からパンを焼く匂いがあたりに漂う。


「よかったぁ」


 地面にペタンと座っている少女は僕の質問には答えなかったが、僕の顔を見るとほっとしたような表情を見せている。


「君が、森の中で倒れていたから私達の住処でもある、この路地に連れてきたんだぁ」


 にこにことのんびりと話す少女に僕ははっとする。


「そうだ、僕たち隣町に行こうと森を歩いていたら、ゴブリンに襲われて……あっ!」


 僕の大きな声に少女が驚いた顔をして体をビクッと震わせる。


「ねぇ、僕以外にあと2人いたはずなんだ! 近くにいなかった!?」


 少女は僕の話を聞くと、真顔になると静かに首を横にふる。


「うそだろ……」


 僕は絶望を感じ、思わず叫んでしまうと、涙が零れ始める。


 少女は首を傾げ僕の顔を見つめる。


「ねぇ、君の大切な仲間なの?」


 僕はしゃくりあげながら、こくん、と頷く。


「来年、10歳、になったら、一緒、の、騎士学校、に、はいる、んだ」


 涙を流し、しゃくりあげながら、僕は少女に説明した。


 少女は痛ましそうな表情で僕の顔を見ると、少し俯く。


「そうなんだ……仲間、大事!」


 少女が力強く頷いた時、背中から白く大きな翼が広がった。


 僕は目の前の光景に息を呑んで固まる。


「君はここで、待っていて! 私が絶対に見つけてくるから!」


 先程の間延びした声とは違い、力強い声だった。


 僕が少女の顔をみると、キリッとした表情で空を見つめている。


 その表情にみとれていると、少女は大きく翼をはためかせると路地の砂塵が巻き上がり、僕はすぐに目をつぶる。


 すぐに風が渦巻くような感じを受け、僕は飛ばされないように地面に体を伏せた。


 しばらくそのままの地面に体を伏せていたが、風が収まるのを感じると僕は少しずつ目を開けながら上半身を起こす。


 だが、すでに少女の姿はなかった。

 僕は慌てて空に顔を向けたが、ひらひら、と何かが舞い落ちてくる。

 それを手のひらで受け止めると、1本の白い羽根だった。


「見つかりますように……!」


 僕は白い羽根を手でぎゅっと握ると顔を上げ空に向かって呟いた。

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路地裏の天使 高岩 沙由 @umitonya

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