最終話
「文集?」
「うん。これの後ろにあるだろ」
その先には『卒業文集』と大きく書かれた表紙。
このアルバムはアルバム部分が先にあり、後半すべては文集という構成。
クラスごとに先生のプロフィールや、ランキング、個人の文集が載ってある。
「待って。
「ね! 懐かしよな」
爽玖が隣で笑顔を浮かべている。私のいつもと違う雰囲気を感じ取ったのかな。
いや、爽玖はいつも笑ってるしな。
ページをめくる。
『○○な人ランキングベスト3』と大きく書かれ、周りには小学生らしいギラギラな装飾が施されている。
「『早く結婚しそうな人ランキング1位:
「俺は未だにそれに納得がいっていない。喜んでいいのかどうかわかりづらすぎるだろそれ」
確かに。早く結婚しそうってどんなイメージ?
「『美女になりそうな人ランキング2位:
爽玖は文集と私の顔を交互に見る。
「何よ、その反応!?」
「この文集作ったの瑠菜か? ダメだぞ。投票結果いじっちゃ。それに1位じゃなくて2位にするところがまた汚い」
「これ作ったの私じゃないわよ! ここに製作委員の名前があるでしょうが。自分が『イケメンになりそうな人』に入ってないことに対する腹いせ? ならダサいわよ」
「俺は性格で売ってる人間だからな」
またページをめくる。
そのページの中心には大きくこう書かれている。
『良いパパになりそうな人1位:山口爽玖』
『良いママになりそうな人1位:小松瑠菜』
私と爽玖の視線はそこにあるはずなのに、2人とも反応を示さない。
わかっていた。ここにこれが書いてあるのは。
でも、爽玖がこれを私といるときに見たらどんな反応をするのか私は知りたかった。
「……俺たちいつも一緒にいたからな。常にペアだと思われてるんだよ」
「うん……そうだね」
お互いに目を合わせずに言葉を交わす。
顔が熱い。
爽玖はどうなの? どう感じてるの?
その下には『1位の2人にインタビュー』というコーナーが設けられている。
好きなタイプとか好きな人いるかとかを聞かれた記憶がある。
山口爽玖
好きなタイプ:夢を応援してくれる人、夢を後押ししてくれる人。
好きな人:いない
小松瑠菜
好きなタイプ:少しいじわるだけど優しくて、いつも勉強を教えてくれる人
好きな人:いない
「俺が見せたいのここじゃないんだよ」
「あっ、まだ見てる途中なのに……」
爽玖が半ば強引にページをとばす。
爽玖が開いたのは爽玖の個人文集だった。
『将来の夢』
僕には将来の夢があります。でも、それを誰にも言ったことはありません。僕にはその夢を叶えることができるかどうか自信がなかったからです。でも、今は違います。ある人に勉強を教えているときに僕はその人に言われました。「爽玖って教えるの上手いよね。先生にでもなっちゃったらいいのに。というかなりなよ! 爽玖にぴったりだよ!」と。僕はとても嬉しかったです。僕は夢を絶対に叶えようと決めました。
「俺はあの日、瑠菜に言われた言葉がなきゃ夢を諦めていたかもしれない。一緒に勉強するのも、それ以外のことも瑠菜がいるから楽しいんだよ。だからさ……一緒の高校に行こう。俺も瑠菜の勉強に付き合うからさ。これからも俺の夢を近くで応援してよ」
爽玖がさっき言いかけたことはきっとこれだ。
――ただ欲を言うなら――
――言うなら?
――いや。なんでもない
私は顔を紅く染めながら爽玖の顔を見た。
爽玖の顔が紅くなっているのは夕陽のせいではない。
誰にも言えないから好きな人がいないなんて書いてさ……。
お互い嘘つきだよ。
卒アルにありったけの想いを込めて モレリア @EnEn-morelia
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