第3話 勇者・タロウ

「転生とは、エネルギーの移動ですじゃ」


「エネルギーの移動?」


 僕は聞き返した、あまり聞いたことのない話だったからだ。エネルギー、何のことだ。


「そう、物質にせよ、精神にせよ、全てプラスと、マイナスのエネルギーの細かい粒子でできているんですじゃ」


「粒子?」


 この青の賢者という人はよほど物知りのようだった。が、言っていることは、全く頭に入ってこなかった。


「あなた方の世界では、原子、分子ともおっしゃるようだが、陰と陽、光と闇とも申しますですじゃ、二つの対立するものがありますでしょ、それらの粒子が絡み合い、お互いに組み合わさってエネルギーの塊を作りますのですじゃ、それが、何らかの小さな核を元としてエネルギーを引き寄せて、魂と肉体と申すものを作り出すのでございます」


 それって、本当?僕は言いたかったけど、どうも僕は科学などが得意な方ではなかったらしい。黙っていることにした。


 学校で習った知識によると、僕はお母さんの体から産まれてきたはずだった。エネルギーの塊、何じゃそりゃ、エネルギーとして自在に変化できるのだろうか?


「じゃ、今の僕は自在に何にでも変化できる、ってこと?」


「違いますですじゃ、違いますですじゃ」


 青の賢者は少し慌てたようだった。


「あなたはエネルギーの塊ではありますが、肉体と精神というものは繋がっておるのでございます。今は、それを、魔法で召喚しておるのでございます」


「召喚?」


「はい、剥き出しのエネルギーのみの存在、強いていうならば『魂』をお借りしてきたようなものにございます。私の魔法で、この「狭間」の空間を超えて、今、我が国に向かっているのでございます」


「なんか幽霊みたいだね」


「気をつけなされ!!ダークサイドに飲み込まれますぞ」


 ああ、そうだ、この「ダークサイド」、というものについて聞いていたのだった。僕はぼんやりと抱いていた疑問を思い出した。


 なんか、どこかの映画で聞いたことがあったかもしれないが、間違いだったか、はっきりしなかった。


「あなたは、ダークサイドのものとは違います、魔物やアンデットはどちらかといえば陰の、闇のエネルギーで構成されています。あなたは違う」


 青の賢者は一旦、僕の様子を見たが続けた。


「影を光が生み出すように、負のエネルギーと、正のエネルギーはせめぎ合うものですじゃ。そのうち、あなたは、光になる人だ、あなたは光だ」


「僕は、光になる人間、僕は光?」


 進んで、と、青の賢者は進めた。


「今、我が国では闇が日増しに濃くなっておりますですじゃ、闇が襲い掛かるようになり、人々は恐れ、憎しみ、ダークサイドへの誘惑が強く、強くなってきておりますですじゃ」


「ダークサイドへはいっちゃいけない、ってこと?」


 しばし沈黙があった。


「人間は、光も、闇も持っているものですじゃ」


 青の賢者は残念そうに言った。


「しかし、光の方を向き、影と闇を背にすることはできるのですじゃ」


「闇と影を背にする?でも、闇を抱えてはいるの?」


 僕の答えに、青の賢者は、より強く反応したようだった。


「そうですじゃ、、我が国の光となり、我が国を救ってくださる光になられる一つですじゃ。あなたには、光が見える。そしてあなたはこの闇を潜り抜ける間に、たくさんのものを手に入れられたはずですぞ、魔法の力ですじゃ」


 それって、異世界転生するときに授かる「チート能力」ってやつだろうか。僕はそういう話が嫌いではなかった。


「ほら、見えてきた」


 見ているうちに、先に小さな微かな点が見えていたが、それがゆっくりと星のようになり、大きくなってきた。それは、模様だった。そして、輝いていた。


 僕は初めて、自分がものすごい勢いで、ものすごい距離を飛んでここまできたことを知った。


「魔法陣!!」


「そうですじゃ!!」


 青の賢者がそう答えた時点で、僕の意識は光をくぐる感覚を味わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年12月20日 08:00
2024年12月21日 08:00
2024年12月22日 08:00

農夫のテトは思った、俺のような人間も冒険に参加していいのだろうか、と ー青の勇者とー 中西 魯な(rona736) @rona736

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ