第2話 勇者・タロウ


「ダークサイド…、って、なんですか?」


「おお、目覚めなさったか」


「ここはどこですか?」


 全く温かい感覚しかなく、何も見えず、何もわからない。闇の中だ。生暖かい感触がある。不思議な感覚、夏の空気のように生暖かく、空間を切って僕は進んでいるようだったが、感覚はあるのだが、肉体を感じない。


 手は?足は?どうなっているんだ?


「もうすぐですじゃ、もうすぐ出口が見えるはずです」


 隣に誰かいるみたいだった。僕は驚いた。その姿を探すが、どうもそれらしき人は見えない。


 闇だ、闇だけだ。誰も見えない。


「あなたは?」


 隣に誰かが共に歩んでいるというか、進んでいる感覚があるので、僕は呼びかけてみたのだが、それが、「見えない」、「感じる」、だけだ。


 ただ、僕はどうもどこかへ進んでいるのはわかった。闇を泳いでいるみたいだ。僕はそう思った。


「申し遅れました、勇者どの、わしは青の賢者と呼ばれております、あなたを呼んだものにございます」


「僕を呼んだ?」


「そうです」


 僕を、呼んだ?どういうことなのだろう、目が覚めて闇の中にいて、僕はどうしているのだろう。青の賢者?青って、一体何のことだろうな、僕は思ったが、聞けなかった。それにしても僕は…、いったい何者だ、頭を捻り出すように思い出してみる。あと、初め、僕は何かを聞いていたような気がする。


「僕は…、僕の名前は、タロウ」


 気がついたら、自分で言っていた。言葉が溢れたみたいだった。タロウ?、ありふれた名前だ、口から溢れて出た。自然に。


 記憶がないので、変な気分だった。そうか、僕はタロウっていうのか。


「ほう、タロウどのと申されるか、よくきてくださった、お待ちしていましたですじゃ」


 青の賢者は落ち着いた声で答えた。とても冷静で、落ち着いた感じの人のようだった。知的で、鋭い感じも併せ持っている。


「ここは?」


「ここは狭間ですじゃ、我が国と、あなたの国との境目にあるところにございます」


 狭間?、どういうことだ?、呼んだ?僕には「呼ばれた」記憶が全くなかった。


 呼ばれるってどういうことだろう?名前でも呼ばれたのだろうか、タロウくーんって。


「あなたは、本を読んでましたですじゃ、その姿が見えました」


 本?何の本だ?僕はそれも知りたかったが、青の賢者は続けて語った。


「そのあなたを、わしが呼んだですじゃ、あなたの姿が見えましたですじゃ、なんて申すのですか…、確か、あれは、中学校というのではございませんでしたか、制服?、黒い服だったですじゃ」


 中学校の制服?僕は中学生だったのか?いや、それも覚えていない。制服?どういうことだ?制服を着ていて、本を読んでいた僕がなぜここにいる。


 闇をかき分けて僕は進んでいく、青の賢者は僕の疑問に気がついたのだろうか、先に答えてくれた。


「そうでございますじゃ、これは異世界への召喚にございます」


 異世界転生だって!!物語の中でしか読んだことのない状態に僕は驚いた。


「じゃあ女神様は?僕に何かの能力を付与してくれるんじゃないの、僕って、じゃあ、何かの病気か事故だったの?」


「気を確かに!!」


 青の賢者の声が強く響いた。


「あなたの集中が途切れますと、転生が失敗してしまいますですじゃ」

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