200 エピローグ
さて以下は蛇足の様なものである。
*
テンダーはその後、師範学校の制服をはじめ、次第に変わりゆく官立女学校の制服全般をも教育省から頼まれる様になった。
特に師範学校の、初等教育を教える教師を養成する場では伸び縮みする素材が実に役立った。
ちなみに師範学校の女生徒の制服はシャツと上下繋がったジャンパースカートの組み合わせだった。
そしてその下に伸び縮みする素材のたっぷりした、膝下でボタンどめしたズボンを履くこととなっていた。
すると運動の時間にはスカートを外すだけで、着替えをする部屋を用意することなくともすぐに上下、それに適した格好になることができる様になったのである。
なおそこで無償教育を受けた生徒は帝国各地に散らばり、五年間は皆その職に就くことを義務づけられた。
そしてこのたっぷりした膝下留めズボンが後に官立女学校でも運動が取り入りられる様になった時に取り入れられた。
テンダーはその様にあちこちの制服が必要な場面に呼び出される様になった。
そんな活動に対し、布地関係ではやはりセレが何かと力になった。
初等教育が盛んになったならなったで、今度は各地の初等学校において、その学校の生徒であることを示すものは何がいいか?
そんなことを教育省から相談された時に、私服であれおなじスカーフがあるならば、という案が出たのもそのおかげだった。
無論元々の日常着におけるプリント地についても何かと常に連携したものである。
結果としてその布自体、売れて行くのだし。
その布が売れる原因としては、やはりエンジュの雑誌達が大きかった。
当人は手を引いたと言っても、そもそもの「友」の方針は代々の編集長に受け継がれて行くことになるのである。
テンダーの三十歳の誕生パーティで発案された造花教室のページも好評で、そこから造花製作キットの様なパッケージ商品を雑誌社の方から直接発売することもする様になった。
また、服の作り方に関しても載せると同時に、慣れない人には難しい型紙を付録なり別売りなりすることもする様になった。
エンジュはそれらを含めた専門の販売部も作った程である。
そして「友」の読者は帝国全土、上から下までの女性まで広がっていた。
それこそ上はヘリテージュのサロンから、下はセレの居る工場の小さな女工まで。
それは北西辺境伯領と南東辺境伯領という一番遠い同士の文化を知るという点でも大きかった。
リューミンから直接キリューテリャに果物輸入のルートの話を通したり、その際に永久氷を切り出しての保冷方法を使ったどうかなどを相談しあったという話もあった。
その南東辺境伯領においては帝都より早く「電話」が市中に普及しだしたということだった。
その件でポーレの夫であるエイザンは非常にあちこち、特に国境の海に面している軍関係との交渉をずいぶんと重ねたとのことである。
そしてこの便利な道具を使ったトリックを使った小説が、女史の手により細かに書かれたことが帝都での普及の後押しをしたとか何とか。
そしてそんなあれこれ動いて行く世界の中を、あちこち公演で駆け巡るヒドゥンは公演先から手紙を奥方であるテンダーに常に送っていた。
それこそ昔の様に、あれこれその土地の変わったことだの、時にはその場所の名産だの、実にこまめに送る様にしていた。
それがまたテンダーの新作のヒントになることも多かった。
発表会は最初の年以来、毎年行われる様になった。
後には春夏・秋冬、と年二回に増やす様にもなった。
それこそ、時勢によりそれがし辛い時代になるまで、テンダーはそれをし続けた。
常に忙しい彼女等だったが、地方公演からの帰還日と、発表会の楽日の後には、二人で――二人だけで、ただだらだらと好きに話し合う姿が住み込みのメイド達から目撃されている。
メイド達は後にこう伝記作家にこう語っている。
「話してる内容も分からないし、私の知っているご夫婦のご様子とは明らかに違っていました」
「でも」
「これだけはわかりました」
「分からない話を口ぐちにしているあの方々は、とても楽しそうだったと」
「きっと誰が見ても同じだったと」
そう思う、と。
完
妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。 江戸川ばた散歩 @sanpo-edo
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