199 三十歳の誕生日②気がつけば皆なる様になり
「おばさま! おたんじょうび、おめでとうございます」
テンダーの姪のシフォンがそう言って背伸びをしながら花飾りを渡す。
「うわあ、ありがとねえ」
そのくらいのことができるくらいにこの子が育ったのだなあ、と受け取ったテンダーもしみじみする。
「うちの皆で作ったの。貴女の記念日だからってね」
甥と共にやってきたリューミンはそう言って地元の「皆」を強調する。
「ありがと。うわ、白の花なのに凄い種類」
「もともとうちの方には白の種類多いじゃない。だからあえてそれをもとに作ってみたの」
「絹…… じゃなくて」
「ええ、あの新しい方の布。絹よりちょっと軽すぎるから、針金をつけて花びらの形を少し形を決めてしまうのがこつなの」
「なーるほど。新素材は洗濯には弱いけどこういうのには使えるわね」
ちら、とテンダーはエンジュの方を見る。
「はいはい。こっちでは造花の講座も始めようかしら? 『画報』より『友』の方がいいかしら? それとも最近新しく立ち上げた女学生のための雑誌…… ああ、そのための素材とかもセットにできるわね」
一つヒントを出すとそこまでざっとエンジュの頭は動く様だった。
それからというもの、ともかくおめでとうとプレゼントの応酬だった。
そして。
「うわあそれが貴女の子供!」
ポーレはプレゼントもさながら、女の赤ん坊を連れてきていた。
「うわー可愛い可愛い」
「ですよね!」
テンダーはすべすべした頬をおそるおそる指で触れる。
「うわ、変に触ったら壊しそう~」
「大丈夫、だけど、まあそうですね止めた方がいいかも」
そうやって久々の乳姉妹同士は笑い合う。
「でも本当に…… 奥様らしくなったわねえポーレ」
「何とか『奥様』やっていますよ。夫のおかげで。社交とかもまあそれなりに」
「大丈夫?」
「テンダー様に帝都でその辺りずいぶん連れ回されたのが結構身になってましたよ。無駄じゃありませんでしたね」
「そうよ本当に!」
キリューテリャも口を挟んできた。
「思った以上にポーレさんって色々ちゃんとしていてびっくりしたのよ」
「そこは、ねえ」
ヘリテージュも大きくうなずく。
「最初はやっぱりおどおどしてらしたし」
「そうおっしゃらないで下さいな……」
しかし確かに現在のポーレは帝都に居た頃よりもずっと奥様然としていた。
「いやもう、お前がこうもちゃんと奥様らしくなってるなんて思わなかったよ……」
フィリアも孫に近付いてはその姿にめろめろであった。
女史も同様に「まさかこのおっとり息子がねえ」と感心していた。
「でもなかなか子育ては大変でもありますね。乳母が居てくれてありがたい、っって自分が言う側になるとは思いませんでした」
「その乳母には子供は?」
「ええ、男の子ですけど。そのうち遊び友達にさせようと思っています。そういう相手が居た方がいいと思って」
「そのうち私の方からも子供紹介できるとは思うけど」
キリューテリャも結婚し、双子の子供ができていた。
ただ彼女の仕事上、どうしても辺境伯の姫やら布地の扱いのことなど帝都との行き来が激しいので子供は帰った時に存分に愛してやることにしている、とのことだった。
「そもそもうちは兄の家族が皆私の子を可愛がってくれるし。この世代で初めての女の子ってことでもう猫可愛がり」
「大家族はそういうところあるわよねえ」
その類いの件では先輩のリューミンも大きく頷く。
「けどまあ、実際私達も歳をとったということよねえ」
テンダーはしみじみと言う。
そもそも自分が三十の歳になって、あの時軽く約束した相手とこういうことになるとは思ってもいなかった。
「まあ、物事ってのはすべからく、なる様になる、なりたい方へと進む、ってことではないですか、奥様方?」
なる様に、なりたい様に。
確かにそうなのだろう、とテンダーは思う。
「そうね。実際それで何とかなってきたし。本当、私が無事三十の歳を迎えたのも皆様のおかげです。ありがとうございます!」
身内中心の小さな会場の中で、ぱちぱちと拍手が起こった。
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