正解のない質問
「塾、やめるの?」俺はSさんに聞いた。
ここは小さい大学受験塾。俺とSさんはここの日本語科目の講師。この国では、大学受験で日本語を選択できるから、日本語の受験講師もそれなりにいる。
「うん、やめることになったよ。だから今週がラストだ。」Sさんが答えた。
俺は大学院卒でフルタイム勤務。Sさんは大学を卒業しているが、契約のバイト社員。顔が若くて可愛い子、とても20代には見えない。
「辞めたら何をやる予定なの?」と俺がSさんに聞いたが、
Sさんは、「まあ、それより、今週の模擬試験問題は私の番なので、問題作成はもうできた。模範解答を作ってくれない?最後だから、お願い!特に中文日訳と作文だね」と俺に言った。
「そうか、はい。」試験用紙を渡されて、目を通したら、「ここの作文、恋文を書かせるの??」と俺はびっくりした。
「そうだよ」
「ちょっとまってよ、本番の試験に恋文が出るわけ無いじゃん」と俺が抗議した。
「練習として、練習!恋文が書けたら何でも書けるよ。」Sさんが言った。
「それじゃん、書く相手がいない学生はどうするの?」と俺が。
「親とかアイドルとか、不特定の相手でも良いよ。」とSさんの理屈。
俺は妥協した。「じゃできたら君のメールに送ればいいよね?」
「はい、お願いするね!そもそも作文なんて正解のないものだから、私は貴方の恋文を見てみたいよ、フフフ」とSさんが言っている。
仕事を自宅へ持ち帰り、前半の選択肢や中文日訳は簡単にできたが、問題は作文の恋文。俺に恋文を書かせるとしたら、相手はSさんしかいない。Sさんが好きだから。
でも書いたらバレるし、告白になってしまう。書かなければ、それは嘘をついていると同然かも。
やっぱり、Sさんへの恋文を書いた。最後に、ちゃんと、「月が綺麗ですね」を書いた。Sさんのメールにファイルを送った。パソコンを閉じてベッドへ転んだ。
小説の一章を読んだ時間が経ったら、Sさんからメールが来た。
「貴方の作文は合格でした。
同じ試験問題に、私も回答を書きました。
添付ファイルをご覧ください。
S
」
添付ファイルをダウンロードし、読んでみた。
それは、私への恋文でした。
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