#ショートショート 『知り合い』




コーヒーを飲んでいる場合じゃない。カフェの隅に座っている女性が気になってしょうがない。絶対どこかで会ったことある人だけど、名前は出てこない。20代に見えるオシャレな方で、大学生ではない雰囲気。多分OL。その顔と仕草は絶対知り合いに違いないが、俺は20代の女性とはあまり接点がないはず。おかしいな。


あ、彼女は喋った。店員に追加注文。やばい、声も馴染みがある。絶対知り合いだ。しかし誰何だろう。どこかで知り合って、なんの関係はさっぱり思い出せない。俺の職場は男性ばっかりだし、同級生はこの年じゃないし。一体誰なんだろう。


モヤモヤして帰宅、その日あまり眠れなかった。


翌日は再びカフェへ。マスターとは仲が良いので単刀直入に聞いた。「昨日あそこに座っていた女性って、知っている?」

マスターは「いや、はじめてのお客さんだと思う。」と答えた。

「その人また来たら、教えてね。」と俺がマスターに言った。

「うん、いいけど、どうしたの。」とマスターが。

「いや、知り合いだと思うけど、名前が出ないな。」とマスターに教えた。

「そっか。」


結局その日も進展なし帰宅。


1週間経った。マスターからの連絡なし。またカフェに行っても、その女性がいなかったし、マスターも「来てない」と言っている。


このままじゃモヤモヤ感が爆発しちゃうかも。


何気なくテレビをつけたら、お笑い番組が流れている。そしてある馴染みのある顔が映っている。あれ、やばい、その女性だ!テロップをよく見たら、お笑い芸人のCRAZYCOCOさんだった。


あ、知り合いじゃなかったんだ。そうだ。数ヶ月前にCRAZYCOCOさんのネタにハマっていて、それから半年経ち、偶然会った本人を知り合いだと勘違いしたのね。


その時、マスターの電話が来た。

「おい、あのお客さん今日来たよ。なんか芸人らしいね。お前、芸人の友達も居るんかい。今度色紙を用意するからサインを頼んで貰える?」



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