裕福な都市とスラム街が隣り合い、退廃の翳りを漂わせる世界に、情景を描き出す典麗な文章。けれど綴られているのは、どこまでも痛ましく苦しげで、「生きている」ことを叫び叩きつけてくる登場人物たちの姿。
泣いている、痛い苦しいと顔を歪める、未知を恐れる、血塗られた世界で手を取り合う。嘘偽りや巧妙を盾に護りを固めていなければならず、安々とくつろげる平穏は儚い。そうして生きている生命たちの、生き抜くために覆い隠された内面が見えた瞬間、心が震える。この世界に生きていると、こちらの胸に訴えかけて揺すぶってくる。その目を離せなくなる美しさが、多くの読者の心を、握り潰さんばかりに掴んでいるのではと思います。
ただ、ここで必死に輝いている命たちを見てほしい。傷だらけになりながら、紛れもなく脈打って生きていることを知ってほしい。血が通い温度を保っているのだと、触れたかのように実感してほしい。
読んでみたいと思ったのなら、ぜひ。幕を少しずつ上げていくように明かされるストーリーや世界の姿に引き込まれ、嘘と真に翻弄され。気づいた頃には、奔走し奮闘する生命たちのことが、愛おしくてならなくなるでしょう。
大切な人や自分がいつ狩られるか分からない……ゲヘナで暮らしながら必死に絶望に抗おうとする咲穂たち。
そして管理された安寧の中でゲヘナへ抑えきれない渇望のようなものを抱く瑞綺。
立場によって変わる価値観・思惑を、驚きの文章力で描いた作品。
そう!この作品の最大の魅力は圧倒的文章力!多彩で魅力的な文章に時々差し込まれるドキッとするくらい美しい詩的な表現……びっくりしました!私には絶対にこんな文章書けない!すごいです!ゾクゾクするほど魅力的な文章!何を食べたらこんな文章書けるようになるんだろう(;゚Д゚)
そして、英数字の羅列などを使った視覚効果も積極的に取り入れられていたり、とつぜん太宰が引用されたりと斬新で新鮮な手法で独特の世界観を創り上げています!これはもう作者さんの感性と言うかセンス、きっと誰もマネできません!
第二章まであっという間に一気読みしてしまいました。それくらい没入感がすごい作品です。
たくさんの方が触れていますが、まず文章力、というか、語彙力に長けた作品です。一節がとても鮮やかに彩られているのは、作者様の言葉の魔術のようにも思えました。台詞回しもちゃちじゃなく、とてもよく練られています。自分では中々思い浮かばなそうな表現だったので、思わずメモを取らせていただきました。
また、作り込まれた世界観が作品のリアリティを底上げしています。ファンタジーですが、作り物っぽくはない。完成度で読者を圧倒するような世界が広がっています。
人間はふるいにかけられて、条件に遭わなかった者はアンダーグラウンドな世界に押し込められて人造人間に狩られる日々。目を背けたくなるほど残酷世界が、尊いものをより美しく魅せる。そんな印象を受けました。
そして、彼女を取り巻く人物たちも個性に溢れたキャラばかり。登場人物は多いですが、誰も霞んでいない。『キャラクターが息をする』というのはこういうことかと感心するくらい、全員がこの物語の中で『生きて』いました。
週末を彩る素敵な読書時間をありがとうございました。
執筆、がんばってください!