光彩陸離、どの光を好むのか?

 純文風の簡潔な文体を、目に浮かぶような美しい比喩・硬派な漢語による状況説明で飾り立てていて、展開の明暗を問わず、華やかさに溢れた作品だと思いました。
 優勢思想によって隔てられた街で、一度出会った伝説の存在が忘れられない咲穂、伝説の実在を肯定する謎の美青年・瑞綺、貧民街の外れに家族を持つ響葵、そして、政府に遣わされた殺人マシーン・人造人間。他にも様々な登場人物がいますが、この四つの視点の切り替わりによって、読者は、誰の味方をするでもなく、冷静に物語を見つめられるのだと思います。
 国に見放された者と安らぎを享受できる者、国と家族の板挟みにされる者、国に扱われる者の四つの視点です。的確に、それぞれの欲求と罪悪が描かれていて、彼らの人間味によって、世界が可視化されていくのを感じます。
 また、16進数で隠された本文をはじめ、麗、蒼牙、魔女と一部の登場人物が持つ目の力の所以、リタとエンブリオの関係の詳細(どういう条件で彼女がこき使われているのか)、記録の詳細と記録者の正体など、ふんだんに織り交ぜられた謎が作品の雰囲気をミステリアスにしています。過去への思い煩いを放棄したか、弱音を吐かないために事実を口にすることを拒んでいるようでもあるので、謎によって感傷的な演出がなされているというのもあるのでしょう。
 そして何より、この作品は、本編だけではなく、作者様の他作品「LIFESTORYという物語について」「アスヲタユタフモノ」、近況ノートでも、内容を掘り下げることができるのが魅力です。キャラクターデザイン、今後の展開に関わってくるような情報、小ネタなど、読了後も様々な方面から作品を堪能することができます。
 楽しませていただきました。これからも執筆頑張ってください。

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