第7話 ex.後日談?

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以降はボツネタやキャラが動き足りなかった結果の後日談的な話です、たぶん。

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「ねー、まゆら。アンタなんかあったの?」

「急になに? えいぴょん、コンタクトの度が合わなくなったの?」

「うわ、いつも通り辛辣なまゆらだわ。それにえいぴょんって、まだ引っ張る?」


 教室の自席でボーッとしていた私に声をかけてきたのは、小柄でツインテールがよく似合う御影みかけ瑛奈えいなだった。

 彼女はジト目で私を眺めながら、乱れたツインテールを手櫛で整え始める。

 私は改めて瑛奈を見つめる。

 少し鋭さのある琥珀色の双眸と鼻筋のスッキリした整った顔立ち。白い肌に小顔で、亜麻色の髪。

 瑛奈は純粋な日本人と言っているが、異国の血が混じっていると私は信じてる。

 そうでなければ、瑛奈の可愛さに、私が病んでしまいそうになる。


「……えいぴょんは、可愛くていいなー」

「は? またこの子は唐突なこと言い出す。本当マジ何があった? まゆらのテンション、ぶれっぶれで、不安しかないんだけど」

「だって、えいぴょんがズルい。可愛い、可愛い、可愛い、性格キツい、可愛い」


 私は指を折りながら瑛奈に告げる。


「おい、さりげなくディスってるのバレてぞ」

「ギャップ萌えだから」

「ギャップ萌えで、性格キツいは言わないでしょ」

「えいぴょんなら有り。ツンデレだし」

「ツンデレ言うな!」


 私の机に手をついて、頬を膨らませぴょんぴょん跳ねる瑛奈。

 彼女は抗議しているつもりだろうが、その可愛さに私だけでなく、周囲の男子生徒、いや女子生徒も含めて、チラチラと瑛奈を見ている。

 やっぱり、瑛奈はズルいよね?

 一頻り跳ねた瑛奈は、「ふぅー」と息を吐くと、澄んだ瞳で私を真っ直ぐに見つめてくる。

 私には健太郎さんがいるのだけど、一瞬、ドキリとしてしまう。


「まゆら、今日はバイト?」

「今日は休み」

「よし、なら放課後、面を貸しなさい」


 そう告げると、瑛奈はくるりと踵を返してから去っていく。

 少し呆気にとられながら、私は彼女の背中を見送った。


*****


 

「あーら、奇遇ね、こんなところで会うなんて」


 瑛奈に腕を引っ張られて、連れて行かれた先は、最近値上がり激しい某バーガー店。

 トレイを持ってフロアをさ迷っていると、真ピンクのフリルがふんだんにあしらわれたブラウスを着こなした筋骨粒々な男性――私のバイト先である喫茶店『ヤドリギ』の店長マスターが手を振っていた。


「あ、ママだ。こんちゃーす」

「……店長マスター、こんにちわ」

「もう、まゆらちゃんたら、いけずなんだから。えいなちゃんみたいに『ママ』って呼んでいいのよ」

「いや、それは……」


 バチン! と音が聞こえてきそうな店長マスターのウインク。私は一瞬、意識が真っ白になりかけるが、何とか踏みとどまる。

 横を見ると瑛奈はトレイをお腹を抱えて爆笑していた。

 店長マスター技を軽く流すなんて。

 瑛奈、恐ろしい子。

 私も茉希さんも、体調が優れないと九割九分の確率で意識を飛ばされるのに。

 あ、健太郎さんもうまくかわしていた気がする。

 瑛奈は健太郎さんとお揃い。

 少し嫉妬ジェラシー

 いや、これで嫉妬はダメかな。


「ほら、まゆら。ボーッとせずに座りなよ」

「あ、うん」


 自分のダメさ加減に反省していたら、少し時間が飛んでしまった。

 私は瑛奈と店長マスターが座るテーブルに早足で近づく。

 何故か瑛奈が店長マスターの横に座っている。

 少しイヤな感じがするが、私は瑛奈の向かいの席に腰を下ろす。


「あら、まゆらちゃんもホットアップルパイを頼んだのね。お揃いだわ、うふふっ」

「アイスティーと合わせると、ホットアップルパイこれがベストなんです。決して店長マスターとお揃いを狙ったわけではないです」

「もう、照れちゃって。可愛いわね、まゆらちゃんは。えいなちゃんの方はガッツリなのね。えいなちゃんは、食べている姿が可愛いから、もっと食べさせたくなっちゃうわ」

「もぐもぐ……あり……もぐもぐ……が……もぐもぐ……ます……」


 ちょっと目を離した隙に、瑛奈はダブルチーズバーガーを頬張っていた。

 小動物のように頬を膨らませて、モギュモギュと世話しなく口を動かす姿は、破壊力抜群。

 隣に座っていた大学生ぽいお姉さんが、手を組んで尊死しかけている。

 私も見慣れていなかったら、ちょっと危なかった。


「で、私を無理やり連れてきた理由は何? 単にバーガーを食べたくなったわけじゃないんでしょ」


 モゴモゴと口を動かしながら、瑛奈はコクコクと頷く。

 だが、私は知っている。

 瑛奈がバーガーを食べ出すとなかなか食べ終わらないことを。

 パッと見た感じでは、物凄い勢いで食べ終わりそうなのに、そもそもの口内面積が小さい。ダブルでなければ、まだマシなのに、頑なにダブルを食べるのよね、瑛奈は。

 食べるスピードは遅いけど、食べる量自体は私の数倍をペロリと平らげる。食べ物がどこに消えているのか不思議でならない。


「もぐもぐ……もぐもぐ……」

「ごめん。何を言っているのか、全く分からないわ」


 頬をパンパンにしたまま、意志疎通を試みてきた瑛奈。付き合いが長くなってきたとはいえ、さすがに何を言いたいのか分からない。

 瑛奈は口を動かしながら、眉根を寄せると、微笑ましく瑛奈を眺めていた店長マスターに視線を向ける。

 しばらく見つめ合う二人。

 衝撃映像の一歩手前みたい光景に、私はホットアップルパイをトレイに戻す。


「なるほどね。えいなちゃんは、優しいわね。まゆらちゃんが不安定なのが心配なのね」

「もぐもぐ……」

「あら、そうよ。えいなちゃんは鋭いわね」

「もぐ、もぐ……」

「え、そうなの。まゆらちゃん、お店以外でもそうなのね」


 笑い合う瑛奈と店長マスター

 瑛奈は言語的な音声を一切発していなかったと思うのだけど。

 若干、身を引きながら、私は二人を眺める。


「まゆらちゃん、日々をしっかり生きることが良い女になる秘訣よ。悩むことは良いこと。ただ悩むことで足を止めては駄目なのよ。ケーくんにって言ってもらえる様になるためには前進あるのみよ」

「――ッ! ゴホッゴホッ……な、なにを……急に……」

「えいなちゃんが、学校での様子を教えてくれたから、すぐにピンときたわよ」

「え、瑛奈は、全然喋ってなかったじゃないですか!」

「あらやだ、言葉が全てだと思っているのかしら」


 少し驚いたような顔の店長マスター

 彼がチラリと瑛奈に視線を向けると、彼女は「やれやれ」と言いたげな様子で首を左右に振る。

 なんか物凄く腹が立つ。

 いや、そんなことより瑛奈と店長マスターが会話を成立させていたことに突っ込むべきかな。

 学校の様子って、瑛奈は店長マスターに何を伝えたのか、分からなくて怖すぎる。

 いや、でも、店長マスターが「ケーくん」って言ったよね。なんで学校の話で健太郎さんが関わってくるのよ。

 私が混乱していると、瑛奈と店長マスターがニヤニヤと私を見つめていた。


「まゆらちゃん、たまに呟いているらしいわよ。『健太郎さんに好きと言われる女になりたい』って」

「――ッ! 嘘でしょ!」

「もぐもぐ」


 瑛奈が首を左右に振る。

 私は飛び上がりたい衝動を辛うじて押さえ込む。

 顔が熱く、耳まで真っ赤になっていることが容易に想像できた。

 嘘でしょ! と私は何度も何度も心の中で叫ぶ。


「もぐもぐ……ごっくん……まゆら、安心していいよ。まゆらが口走りそうな時は、アタシが人を追っ払ってあげてたから。透子とうこのぞみも協力してくれてるから、お礼言っておきなさいよ」

「え、瑛奈……」


 明日から学校に行けないと思っていた私は、その言葉に、私は思わず涙ぐんでしまう。

 瑛奈の後ろに後光が差し込んできそう。


「学校で、教えるのもなんだったから、アンタを……連れ出したのよ。さすがに一週間も、心ここに非ずみたいな状態……だったから」


 ちょいちょいポテトを頬張りながら、補足する瑛奈。

 先週……勢い任せに健太郎さんに告白したことを思い出し、また体が熱くなる。

 私は慌ててアイスティーを飲んで、体を冷やす。いや、そんなのじゃ間に合わないし、ここから逃げた方が早――


「まゆら、どこに行くつもり?」

「まゆらちゃん、まだパイが残っているじゃない」


 テーブルから身を乗り出した瑛奈と店長マスターの手が、私の肩をガッチリと掴んでいた。


「きゅ、急用を思い出して……。店長マスターはお店に戻った方が……」

「あら、心配してくれるなんて、やっぱりまゆらちゃんは優しいわね。今日はそんなに混む日じゃないから、茉希ちゃん一人で十分なのよ」


 店長マスターのウインク。

 何とか私は耐えたが、抵抗する気力が全て吹き飛んだ。

 私は二人の手に押されて、再び席に腰を下ろす。


「さ、女子会の続きと洒落こみましょう。瑛奈ちゃん、追加で欲しいものがあれば注文していいわよ。勿論、支払いはアタシがしてあげるから」

「やった! さすがママ!」


 無邪気に喜ぶ瑛奈。それを微笑ましく眺める店長マスター

 女子会という単語に突っ込む気力もなかった。




 それから「良い女になるためには、どうするべきか」を議題に、女子会(?)は小一時間ほど続くのだった。

 まゆらが精も根も尽き果てたのは言うまでもなかった。

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【短編】喫茶店と女子高生と恋わずらい 橘つかさ @Tukasa_T

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