風に揺れてる草花に、愛しさを知るだろう         

大陸東部一円を領土とする天道王国は、二つの公国と四つの属州からなる。
王朝支配を盤石にしているのは、建国百五十年を経た『水鋼公国』である。

中級武官の子息として生まれた水心子冷衛は、父の影響をうけつつ十歳で官僚の子弟が通う興学館に通い学問に秀でるも剣は未熟。
素行の悪い年上の者たちの妬みからくる暴力を受けたとき、助けてくれた光椿の道場を通うために父に願い出、腕を磨いていく。

二十歳のとき跡目相続で実子派と弟派が対立、派閥争いが起きる。
が、本国の通達により、実子である狂四郎が第十三代当主となり終焉。
弟派の重臣はじめ末端の家臣に至るまで粛清を受ける。
弟派に組みしていた父は閑職となり、病も患って他界。
父をなくした冷衛は、父の跡をついで閑職の倉庫番になる。
本人の頑張りで積み上げてきた実力は、権力闘争の憂き目の前ではどうにもならず、自分より劣るものから罵られ、殺伐としていた。

そんなとき、弟派の旗手であった当時の内務省次官、退役後は人材派遣業を営む春日爾庵誠之助に声をかけられる。
権勢を得た実子派により処断され、弟派についた父たちを助けられず「申し訳ないと思っておった。相すまん」と詫びられたことを契機に、度々屋敷に呼ばれるようになる。

一年して、彼から「まだ公主継承の派閥争いは続いている」と聞かされ、実子派の策謀による暗殺の証拠が記された密書を密使に運ばせる故に護衛をするよう頼まれる。
成功した暁には「家格上げの口添え」「侍女・美夜の婿」「親父殿の悲願を代わりに叶えてやる好機」「日頃から冷笑する連中を見返す転機」が約束されていた。
しかし、現れた黒衣の人物と刃を交えるも、相手の力量に刀を折られ、密使と密書を奪われてしまう。
半年の謹慎を経て職務に戻るも、さらなる周囲の霊障に耐えきれず失職。
進むべき道を失い、市井に身を投じる事となった。

……あれから二年後。

口入れ屋から仕事をもらい、師匠・光椿の道場の手伝いをしながら暮らす冷衛。
諸士検見役の真人が、黒衣の人物に殺される事件が起きる。
許嫁・紫光小竜が仇討ちの手伝いを口入れ屋に依頼し、物語がはじまる。




本作の良いところ。
主人公が深堀りされている。
キャラが立っている。
相手を説得して話す手順がうまい。
剣技、戦闘シーンが特に見どころ。
独特な世界観にあった比喩表現や言葉遣い。
魅力ある悪と、その企み。
細部に至る状況描写などなど。

読者を惹き付ける謎解き要素と戦闘シーンの見せ場、夜の戦闘描写など矛盾なく描けているところが『クルシェは殺すことにした』より上達している。
二次選考通過も頷けます。

その他のおすすめレビュー

snowdropさんの他のおすすめレビュー613