27 分厚い手紙②~エピローグ

 なるほど、ネイリアとトラディアもあの両親には思うところがあった訳だ。

 そもそもが俺に自分の家を乗っ取られた様なものだと思っていたんだろう。

 だとすれば邪険にすること自体は仕方がない。

 とは言え、二人がかりで小さい俺を虐めたことに関しては許しはしないがな。



 お前の親父さんは診察はしたが、治療にまで責任は持たないそうだ。


「私は似た症状の妻を助けることができませんでしたよ。だからこんな藪医者でなく、もっと高名な医者を頼ってください」


 そう子爵には言ったそうだ。

 お前の祖父さんもこれ以上の子爵家への支援はできない、と打ち切る模様で、どうやら子爵は生き残るために離婚を考えているらしい。

 で、夫人を男爵家に戻そうと。

 ところが祖父さんは、お前の祖母さんの方で手一杯だと、それを突っぱねたらしい。

 そこで仕方がない、とでかいあの家を売ることにしたそうだ。

 そして日に日に酷くなる夫人を病院に入れて、子爵自身は仕事に通いやすい場所に部屋を借りるとか何とか。

 いやあ、領地を持たなくなった貴族ってのは、そういうとこめで弱いよな。

 その意味ではお前の実家の様に、領民を大事にするところは強いよ。

 まあそうだな、そっち、辺境伯領ってのも領民のことをよく考えているって有名だしな。

 やっぱり住んでいる皆のことを考えてくれていると実感させてくれるのはいい領主なんだよ。

 お前の親父さんはその意味で、次のいい領主になるよな、絶対。

 お前もそっちで一人前の医者になってから、俺をそっちに招待してくれ。

 ……いや、俺達、かな。



「ん?」

「あら?」



 実を言うと、あれから「関係被害者同士」ということで、アラミューサ嬢と俺、お付き合いしてるんだよな。

 サリーもそうだけど、こういう時俺、きょうだい多くて本当に良かったと思うぜ。

 俺自身は帝都で役人になりたかったから、あまりうちに縛られないで済むしな。

 けど結婚となるとなかなか手強い。

 アラミューサ嬢に「子供要らないし」ということで現在アタック中だ。

 彼女も二度断られた、ということで、もう親は嫁ぎ先は何処でもいい、という気分になっているらしいな。

 堅実これオッケー、ということで、俺が名乗りをあげたという訳だ。

 共犯者同士、なかなか良いと思わないか?

 だから上手くいったら、揃ってお前等のところへ行けたらいいと思ってる。

 だからそれまでお前ら元気でな。



 手紙を読み終わった俺とサリーは何とも言えない顔をしていた。

 まさかリチャードがあの令嬢に!

 いや待て、考えてみれば、俺となかなか気が合った令嬢だ。

 あいつとも気が合ってもおかしくはない。


「あ」


 そこでサリーが声を上げた。


「確かこの方、子供の声が駄目なんでしょう? 大丈夫かしら」


 そう言いながら彼女はまだほとんど膨らんでいない腹をさする。

 ありがたいことにここの気候や人々の気性はサリーには合っていた様で、まあその、早めにできてしまった訳だ。

 宿舎の周囲の人々も、若い妻の初産は~と皆興味津々で健康状態を気にしてくれている。

 そこで皆の好意を素直に受け容れられるのが彼女の良いところだ。


「まあ落とすには少しかかるだろうから、それまでに何とでもなるさ」

「そうね」


 俺はそう言って微笑むサリーの肩を抱いたのだった。

 ようやく得た温かい自分の家庭。

 俺はじんわりとその幸せを噛み締め、ずっとそれを守っていきたい、と思った。

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お前等に奪われたものは、何倍にして返してやろうか? 江戸川ばた散歩 @sanpo-edo

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