欠落と喪失、それは似て非なるもの

人を殺めることに、何の情念も抱かない“私”。
そして、そんな“私”を形成した過去と生み出された歪な関心。
常人では到底理解できない、凶悪殺人犯。
……というわけではない。
そのレッテルを貼り付けた貴方も、もしかしたらこちら側なのかもしれない。

独特な切り口から始まる、重厚な作品。
その感性が全面に押し出された、まるで真っ新のカンバスに叩きつけられた顔料のように露骨で独創的な“私”の内面には、恐怖の他に美しさを感じました。
そして、これもひとりの人間なのだと。
物語はまだ序盤ですが、これからの展開にも目が離せません。

純文学の語り口から紡がれる残酷ながらも、ある種の美しさの垣間見える極上のホラー。少しでも興味を持った方は、是非ともご堪能下さい。