第10話 蒼穹と光風

 騙すようなつもりは無かった。


 私が魔族だってこと、早く言うべきだって分かってた。


 ずっと騙してたと思うよね。嫌いになっちゃったよね。


 少しの間、一緒にいるだけなら知らせない方が、怖がらせない方が良いと思ったから……


——どうしても言えなかった。


 最初は人間と話が出来て嬉しかっただけ。でも今は……それだけじゃない。


 しばらくリベルと私はその場に無言で座っていた。

リベルの元へ駆けつけた後、体力が限界だった。

どちらが言うでもなく、2人ですぐ近くの丘に座り込んでいたのだった。


 口の中が乾いている。力が入らない。力を込めたのに、自分で思うよりもずっと小さい音が口から出た。


 「私、封印師じゃないの、魔獣に詳しいのは……私が、魔族だから。嘘、ついちゃってごめんね。今までありがとう。それじゃ、私は行くね」


 言うと決めていたことをひと思いに告げてしまい、立ち上がる。

最後に、もうひとつだけ。そう思ってリベルの方を振り返る。


 「まだ君のこと、友だちだと思っていても良い……?」

 「ちょっと待ってよ! 何で急に……」

リベルが慌てた様子で声をあげる。


 「これ以上嫌われたくないの。だから、もう行くね」

怖がられてまで一緒に居たくない。

 「嫌う? 誰が? どうして?」

 「……さっき私の姿を見てリベルは、私が魔族だってこと分かったよね」

リベルはキョトンとした表情でこちらを見た。


 「私が魔族と知っても一緒に居てくれるの……?」

 「さっきの事は……まあ、驚いたけど。今でも僕はクレアを友達だって思っているよ」

 「私のこと、怖くないの? さっきも……あの夜だって、魔獣に……暴走した魔族に襲われたのに?」

クレアは自身とっての最大の疑問を口にする。


 「別に、あの魔獣とクレアは違うし……確かにあれは怖かったけど。でもそれだけだなあ」

リベルはぼんやりした様子で言う。

 「それに、村に連れて行くって約束したよね? 一緒に僕の家に行くんでしょ? 約束を破るつもりは無いよ」


 「ふふっ、そっか。ありがとう。はあーあ、もうヘトヘトだあ」

安心して全身の力が抜けていった。再びその場に座り込む。

 「僕もだ。もうしばらくこのままで居よう」

さっきまで動いていたのが不思議なくらい、足も腕も今は上がらなかった。


 霧はすっかり晴れて、太陽が高く昇って空を照らしている。

軽やかに風が吹く。

そこには青くどこまでも続いているような空、蒼穹が広がっていた。

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魔法と魔族と魔道具と。 ゆいき @raira22

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