のんびり司書は魔術院に行きたくない
王立魔術院
建国400年以上のラスカ王国が建国初期に創設した魔術の研究機関。
魔術研究の成果は軍事、産業、生活のあらゆる面で影響を及ぼしている。
ラスカ王国の栄華は王立魔術院の存在なくしては語れない。
その門を潜るということは魔術における素養を国が認めるということに他ならない。
そしてこのお嬢様はこともあろうに僕を誇り高き魔術院へ招こうとしている。
「色々と考えてみたけどサラでも何も見えないとなると、私じゃ手に余るわ。この先のことを考えるとやっぱりちゃんと調べておいた方がいいと思うのよねぇ」
「ちょっと待ってください!さすがにそれは…」
「大丈夫よ。今の魔術院は身分とか権威とかうるさくないから」
「いやそういう問題でなく!そんなとこ行って何かあったらこの先僕は…」
「はぁ…君はもう元に戻れる次元の話じゃないわよ」
すごいガッカリされた気がする。
サラさんがフォローに入ってくれた。
「現状、ノルトハイム様の魔術の詳細は把握できず、マナの総量や属性も謎のままです。Aランク相当の妨害魔術が使えるか、ウィザード級の魔術操作ができる。この点だけでも魔術院から特命招待を受けるレベルの逸材です」
「はぁ…あまりよくわかりません…」
「特命招待は王令によって魔術院の席を招待される制度です。研究室と人員、予算を与えられ、魔術研究が可能となります」
「つまり、魔術師の逸材を国で囲う制度よ。特命招待を受けると無条件でウィザードの称号を受けられるわ。私の師匠も特命招待を受けたウィザードなの」
「はぁ…それでなぜ僕がそんなところへ?」
「分かりやすく言うと君の魔術を解析して扱い方を学んでみない?って話よ。今のままだと、どこで魔術を暴発するか分からないでしょ」
うーん確かに…言わんとしてることはよく分かるが…
でも明日も勤務があるしなあ…
「でも僕、明日出勤なんですよ…」
「……」
二人してなんで黙ってしまうか。
「次の休日にお邪魔させていただくとか…」
サラさんが俯いてしまった。
ディアナ様は…呆れてしまった。
「サラ…図書館に連絡して。オリヴァー君は明日預かるって」
「承知しました」
「え?え?」
「こんな爆弾みたいなのを放置しておくわけにいかないでしょ!いいから明日私についてくる!」
「はっはい!」
なんで怒られたのだ…悪いことしてないのに…
「オリヴァー君はまだ自覚がないかもしれないけど…」
ディアナ様が改まって僕に向き合った。
「君の持つ力は使い方によっては国家すら転覆させかねない力を持つ可能性があるの」
また脅迫みたいなことを…
「君は魔術師について疎いようだけど、サラはこの国では高位の魔術師なの。彼女の探知魔術を妨害するってことはほとんどの魔術を妨害できると言っても過言ではないの」
すごい恐い話をされてる気がする…
「そこで重要なのはここから、君の力について良くない方向へ利用する輩が現れてもおかしくないわ。政敵の排除とか暗殺とか、国家の転覆とか」
「ノルトハイム様、ちなみにご生家との関わりは如何に?」
あー実家ですか…実家ねえ…なんて答えたら…
「ノルトハイムって言ったら武家の名門の系譜よね。魔術師よりも軍人や戦士を排出してるわよね。」
「えぇと…勘当されてまして…」
「あぁ…っと…ごめんなさい」
すごい申し訳なさそうにされてしまった。
いや、気にしてないんですよ。
おかげで性に合ってる生活が手に入ったし。
「勘当についてはむしろありがたいくらいの生活を得られたので気にしてません。ですがなるべくなら、ノルトハイムではなく名前で呼んでいただけると…」
「…失礼しました。オリヴァー様」
様もいらないよぉ…
「実家の関与も考えにくいなら、尚更魔術院へ来た方がいいわよ。後ろ楯ないと何されるか分からないもの」
自分が得たものが未だに分からない。
このままでもいいかとは思ってみたけど知る必要があるのかな。
このまま平穏無事な生活が継続可能ならいいんだけど…
「仮にですが、僕が元の図書館司書として勤務ができる可能性ってどのくらいなのでしょうか?」
「…君がその生活を取り戻すには、君自身が魔術を理解し、制御し、安全であることを保証しなくてはならないわ」
力を得てしまうというのも考えものなのか…
一昔前は何も得られない自分が、どこにも必要とされない自分に嫌気がさしてたのに。
「魔術の歴史は近現代の文明の発展と密接に関わりを持つわ。一方で魔術の歴史には闇の部分も多く含まれるの」
戦争、犯罪、政治闘争、魔術と関わりのない僕ですら分かる。
魔術が歴史上でどんな使われ方をしてきたか。
「今の君は大きな可能性を授かったと考えて」
可能性?
「大魔術師、大犯罪者、はたまた戦争の英雄、色んな可能性よ。ただ、君が望む平穏で安らぎの日常へ戻れる可能性があるかは分からないわ」
「穏やかで書物に触れてらいられる未来は…」
「周囲の環境が放っておけるような状況じゃないのよ、今の君は」
そりゃそうだろうなあ…ざっくり聞いた話だけでも利用価値がとんでもない気がする。
力の使い方を、正しく学ぶ必要がある…のかな。
「可能性ね…面倒なことになったなあ…」
「ロレーヌ公爵家はラスカ王国建国以来の名門。誇りと忠義をもって国に仕えているわ」
ディアナさんが僕に向きあった。
迷いなく僕の目を見つめてくれる。
人から真っ直ぐ見つめられたことなんてあったろうか。
いや、僕が俯いていただけか。
「君と関わり、君を利用して何かを為すことになっても、それでも私は誇りと忠義を胸に君の力になるわ」
女の子からこんなこと言われたことあったかなあ…かっこよくさえある。
覚悟は決めてるんだろうなあ…
「分かりました…ディアナ様にお任せします。僕が得た力を知るための協力をお願いします」
「フフン…任せなさい!」
急に嬉しそうに胸を張った。
「そういえば君」
「はい?」
「歳はいくつなの?」
ああ、そういえば言ってなかったっけ。
「今年で18になります」
「…2歳も歳上なの…」
ガッカリされた。
のんびり司書は魔導書読んで賢者になりました キタザワヒロ @kitazawa-27
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