のんびり司書と公女と妨害魔術と

勤務後に連れ出されたのはでっかい屋敷。


察しはついてたけど貴族のお嬢様だったか、この人…


「ノルトハイム様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


侍女のような風貌のお姉さんが屋敷に通してくれた。


貴族出身だからこそわかるけど、この規模の屋敷を王都に構えていられるのは相当な地位の貴族だろう。


侯爵位くらいかな…結構な歴史のある貴族な気がするけど…


「あんまりキョロキョロしてると田舎者だとバカにされるよ!」


頭に乗った妖精がうるさい…田舎者はその通りだから言い返せないだろ。


「お待たせしたわね…オリヴァー君にイリスも」


「あっ…はい…」


ドアが開けられ、先程の緑のお嬢様とお付きっぽい綺麗なお姉さんが入ってきた。


「こちらはサラ。私の従者で魔術師よ」


「サラです。よろしくお願いいたします」


「あっはい…よろしくお願いします…」


丁寧なお辞儀をされた。そんな畏まられるとやりづらいなあ…

すっごいジロジロ見られてるし、なんか体の色んなとこがチクチクしている気がする。


「サラ、意地悪はしないの。全部バレてるから」


「え…?」


「失礼しました。ですが中身は何も見えませんでした」


「ジャミングが張られてるのかな?サラの干渉が入れないなんて高等魔術に近いわよね」


「はい、漂うマナも透明で色の把握もできません」


「え…え?」


「力の底がわからないとなると迂闊に口外しにくいわね」


「はい、このレベルの魔術師はお嬢様に見つけられなくともいずれ何者かによって発見されていたでしょう」


「あの~なんのお話をしてらっしゃるのでしょうか~…」


完全に置いてけぼりにされてる。一体何を企んでいるんだ、この二人は。


「ああ…ごめんなさいね、無視していたわけではないの。サラは私より高位の魔術師だから色々とアドバイスが欲しくて、同席してもらったの。私じゃあなたのことなんにもわからなかったから」


「ですが、私でもわかりません。強力なマナの障壁にあらゆる魔術が跳ね返される印象です」


「せめて中身が分かればなあ…ねえ、そのジャミング解けないの?」


「ええっと…ジャミングってなんですか?」


頼むから一から説明を…こっちはズブの素人なんだよ…


「ちょいとお二人さん、こいつ魔術はなんも分かってないのよ。マナの感知すら最近になって理解したんだから」


イリスが割って入ってくれた。頭上で菓子をボリボリしてるのが気になるが。


「ジャミングは自分で発動したわけじゃないの?」


「なんか体がピリピリするなあって思って、気になったらすぐ引きました。」


「あらかじめ張られていたものではない気がするわ。オート式のジャミング?それとも発動速度が速いのかしら」


「オート式であればAランク相当の妨害魔術です。発動速度が速い場合と考える場合でもマナの使用痕跡や反射速度を考えてもウィザード級の魔術師です」


「どちらにせよ、とんだ怪物がこの国に登場したわけね」


今怪物って言った?


「ノルトハイム様、魔術理論の知識等はございましたか?書籍で読んだり、低レベルでも魔術の行使経験は」


「いえ、全く…」


サラさんが数秒考え込んでから、僕の方を向いた。


「魔術の素養に優れた赤子がごく稀に結界魔術や防衛魔術を行使する事があります。魔術の行使方法はおろか、マナが何かも理解していない赤子がです」


なんの話だ。


「子供が危険を察知し、本能的に自己防衛のために魔術を行使してしまうことがあるということです。特に赤子は些細なことでも、泣き出しますから」


なんか実体験のような話し方だな。


「ディアナ様も生後まもない頃に私に拘束魔術を行使しました」


「ちょっとサラ!」


「少し離れようとしたのがお気に召さなかったようで、丸一日ディアナ様を抱いていました」


なんかばつの悪そうな顔してらっしゃいます、お嬢様。

すんごい恥ずかしい話をされたのではないか。


「つまり赤子が本能的に自己を守るために行使する魔術のように、ノルトハイム様も本能的に魔術を行使してしまうようになっているのでしょう。魔術理論を知らないが故に」


「そんなこと言われても…」


「…妨害魔術以外にも不都合が生じそうね。この先無意識で攻撃魔術を発動する可能性があるわけよね」


「おそらくその可能性があります」


「恐いこと言わないでください…」


「うーん…そぉよねぇ…なんとかした方がいいよねえ…」


わざとらしく、お嬢様は考え込んだ雰囲気を出している。

嫌な予感がする。非常に不味い気がする。


「あのぉ…今日はこの辺で…」


「よし!オリヴァー君!一緒に魔術院へ行こう!」


やばい、やばい、やばい、これはやばい気がする。

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