『正しいドミノの倒し方』読書感想文

飯田太朗

『正しいドミノの倒し方』を読んで

 簡単にストーリーを説明すると以下になる。

 元警察特殊部隊爆弾処理班だった水戸部義三は精神病を理由に除隊、以来障害者年金で暮らしているのだが、日常生活でストレスを溜め、東京タワーを爆破することを計画する。

 喫茶店で計画について考えているといきなり横から同じく精神病を患っていると思しき女に絡まれ、彼女も計画の一員に。それから雪だるま式に仲間が増えていき総勢八名のおかしな仲間たちが東京タワーの爆破に踏み出す。

 深夜零時に花火を上げよう。そんな考えの下東京タワーに爆弾を仕掛けた主人公たちの起爆スイッチは、何とドミノ倒し。ドミノ倒しが上手くいけば最終的に東京タワーで爆弾が爆発。水戸部は緊張の一突きを……? というストーリー。

 本作は何から何までナンセンスというか、登場人物たちの会話ひとつとっても意味が分からない。意味が分からないのに読ませるのである。以下に抜粋してみよう。


「トマトって投げると爆発するよな?」

「するのとしないのとある」

「イチゴは?」

「概ねしない」

「同じ赤い果物なのに?」

「トマトって果物?」

「木になるだろ」

「トマトって木?」

「お前のサラダ木が入ってんのかよ」

「待って、イチゴって木にならなくない?」

「イチゴ狩りってあるじゃん」

「ある」

「きっと野原を、駆け巡ってるんじゃないかな」


 こういう会話がデフォルトである。まだ登場人物が水戸部一人だった頃はよかった。あの頃は独白でストーリーが続くのだがまだ秩序があった。しかし喫茶店の女、「紅の新庄」が出てくるあたりからナンセンスが極まってくる。いや、秩序がないというわけではないが、お互いにねじれの位置にある秩序が交わることなく続いていくので線がどこまでも続いていくというか……よく作品というひとつのまとまりにしたなという印象。

 本作に出てくる人物はいずれも精神疾患、精神障害を抱えている人たちである。こうした障害に関する創作物は繊細な問題で、下手な描写をすれば顰蹙ひんしゅくを買うことは間違いないが、しかし作者の筆致が軽快というか、「これはちゃんとフィクションですよ」ということを分からせながら書いてくれているので現実社会で精神疾患に悩む人たちも決して嫌な思いはしないと思う。かくいう私も精神障害を抱えている人間だが、むしろ「ああ、こういうのあるある」などと共感してしまうような場面さえあった。

 滅茶苦茶なチームの行く先は? 果たして爆弾は爆発するのか? 

 そんな興味に惹かれながら読む本作は素晴らしい読書時間を提供してくれた。

 作者の頭の中が覗いてみたい。そう思えた作品である。

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『正しいドミノの倒し方』読書感想文 飯田太朗 @taroIda

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