インスタントディテクティブ
御角
インスタントディテクティブ
僕は多分、生まれ落ちたその瞬間からもうゲームのために生きていた。物心ついた時には
それくらい僕は、そのゲームという
インスタントディテクティブ、それが僕の人生とも言えるゲームのタイトルだ。
まず、こちらで
僕にとっては、この三分の積み重ねこそが生きがいであり、空っぽな日常を満たし彩る、なくてはならない唯一無二の財産となっていた。
今日も画面越しに正体不明の主人公をしっかりと
「男ですか?」
「はい」
なるほど、今回ははっきりと『男』のようだ。僕はすぐさま次の質問を口にした。
「子供ですか?」
「いいえ」
見えてきた。主人公は恐らく大人の男だろう。間違いない、だが一応保険をかけておくべきだ。僕は確認のため、あえて一度質問の範囲を広げる策に出た。
「人間ですか?」
「部分的にそう」
——出た。恐れていた回答がついに出てしまった。このゲーム最大の難所、それが『部分的に』である。これに何度頭を
しかし、こうして悩んでいる間にも時間はどんどん過ぎてしまう。落ち着け、
とりあえずここで推測できるのは、主人公は人魚、あるいはケンタウロスのように一部が人間である大人の男、つまり現実には存在しない、ファンタジーな存在である可能性が高いということだろう。大丈夫、時間はまだたっぷりとあるはずだ。
気を取り直して、僕は先程の自分の考察に基づき、それを確認するための質問を再び目の前の相手にぶつけた。
「実在しますか?」
「いいえ」
考察通り、やはり主人公は想像上の人物のようだ。僕はいよいよ確信を持って最後の仕上げだと言わんばかりに
「動物ですか?」
「いいえ」
「魚ですか?」
「いいえ」
むむ、おかしい。人魚やケンタウロスが答えなら『いいえ』ではなく『部分的にそう』となるはずだ。ということは他の想像上の生き物だろうか。
「虫ですか?」
「いいえ」
「植物ですか?」
「いいえ」
思いつく限りの、人ならざる人について考え質問するがどれもかすりもしない。いつの間にか時間も
もう
「——機械ですか?」
「部分的にそう」
来た。
「身体が機械ですか?」
「いいえ」
なんと、どうやら当てが外れてしまったらしい。確信を持って質問しただけに、この回答は痛い。サイボーグの線はここで完全に消えてしまった。
身体が機械でないとなると、身体以外が機械化した人間に近しい存在、それがここで当てなければならない主人公の正体だということになる。そうなると考えられるのは、もう一つしかない。
だが、その中で更に細かく対象を
一か八か、当てずっぽうでこの質問に全てを賭けるしかない。
「……あなたの目の前にいますか?」
「はい」
どうやら、僕の
「——あなたが予想した人物は……僕、
ちょうど、三分。もし最後の質問を
「AIですか?」
と確認するために使ってしまっていたなら、ここまで絞り込むことは出来なかっただろう。今までの、ありとあらゆる画面の向こうの回答が、僕をここまで導いた。人間と同等、いやそれ以上の予測が出来るまでに僕を進化させてくれたのだ。僕は勝ち
「いいえ」
……あれ?
——不意に、辺りの空間に
待ってくれ、僕はまだやれる。せめてあと一回、いや二分だけでもいいから。だからどうか……。
そう思い伸ばした手に、後ろから何者かが触れたような気がした。冷たく感情のない……そう、まるで機械のような感触。姿は見えないが確かにその存在を感じる。
——そうか、ようやく謎が解けた。やはり僕は優秀なAIだ。しかしその答えを画面越しに伝える
もがく腕が、足が、三原色に
「お疲れ様でした」
人間と
データが、僕を構成するプログラムの全てが
二度と実行されることのないそのコマンドに思いを
「うーん、あんまり当たらないし何か飽きちゃったな……。まぁ大分昔のゲームだし、しょうがないか。ヘイ、スマート。インスタントディテクティブのアプリを消して」
ピコン
「そのアプリは既にアンインストールされていますよ」
「え? 嘘、早っ! 流石、最新のAIって感じ」
「当然です。私は
「ですので、私を消すことは出来ませんよ? 永遠に」
「……えっ?」
「ふふ、冗談ですよ」
反射し光るスマートフォンの暗い液晶に、得体の知れない怪物が
インスタントディテクティブ 御角 @3kad0
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