そこに道徳の入り込む余地はない

ふらっと立ち寄って、衝撃を受けました。
本作を構成する文章や内容。それを巧拙や善悪という陳腐な物差しで測ること自体がどうでもよくなってくるほどに、前のめりに読み進めることができました。特に薄暗いリアルさというか、自分自身も似たようなことに巻き込まれたことがあるので、そういった部分の描写が心に刺さりました。

居場所を求めることの代償と、摩耗していく心。
作中における上海での様々な出来事は、正義や規範というフィルター越しに見れば、理解に苦しむことと思います。ですが、もしもそれがなかったとしたら。本作の趣旨からは逸れますが、そんな偽善的なものは自分を守ってはくれないのだと改めて思いました。

知らない町や国に、誰しも一度は幻想を抱いたことがあると思います。
それが良いことなのか悪いことなのかは、わかりません。それでも、それを原動力に自分のために生きることは間違いではない。一度きりの人生。我慢や忍耐を美徳や言い訳にせず、いい意味で自分勝手に生きるのも一つの道なのではないかと思わされた作品でした。