2024年

全日本MTB 応援観戦記

 2024年7月7日


「言いたい事はたくさんあるけれど‥‥‥」

 女子エリートのチャンピオンは表彰台の一番高い所からそう言った。

 でも何も言わなかった。ここで勝てた喜びと応援してくれた人達への感謝の気持ちを述べた。

 立派だったぜ!



 だから俺も何も言えねぇ。

 毎度何かしらのわだかまりが残るオリンピック代表選手選考の事なんだけどさ。

 以前このエッセイの中に書いた選手の事も今回はあえて誰とは書かずに進めたい。




 男子エリートも女子エリートもトップ争いをした選手達の事は、その選手のほんの一部分であるかもしれないけれど知っている事は色々とある。

 大きな怪我とか、苦しんできた事とか、選んできたものとか。

 だから、どうしてもその背景や今の気持ちを想像してレースを観てしまう。

 少しでもそういう事を知っていると応援観戦に熱が入るってもんだけど、それは1つの見方っていうか。


 そういうものを抜きにして、今回は男女共に熱い、いいレースだったと思う。

 30度越えの灼熱の中、1時間〜1時間半に渡るフルもがき。



 特に男子エリートの上位4人の戦いは凄まじかった。レースが始まってすぐにこの4人の戦いに絞られた。

 各々の選手が牽制し合うのではなく、自分の勝機を探りながら果敢な走りを見せる。

 それぞれの選手達がここに掛けてトレーニングを積んできた証が見える。

 そのバチバチの勝負そのものが見ている者を興奮させた。

 各々が今持てる力を存分に出し切ったレースだったと思う。


 チャンピオンになれなかった者はまだ足りない物があった。一番強い者がチャンピオンになった。

 心から拍手を送りたいレースだった。全日本ならではの熱い熱い戦いに痺れたぜ〜!




 レースはエリートクラスだけでなく、若いユース、ジュニア、U23、マスターズの戦いもある。


 どのクラスの戦いも熱く、それぞれのクラスの輝きにワクワクするものがあった。


 女子は全てのクラスが一斉スタートで、周回数は異なり、それぞれのクラスにチャンピオンが生まれる。

 今回、俺はフィードゾーンに入って、仲間に冷たい掛水のボトルを渡す係を受け持った。


 全日本は日本一を決める戦いではあるけれど、それだけではなくて、ひとりひとりにそれぞれの戦いがある。

 目指すものは皆が違っていいって思えたし、レースで目指す物なんてなくてもマウンテンバイクレースを楽しむ事自体に大きな意義があるって思えた。


 仲間をサポート、選手を応援、ファン目線での観戦、会場でしか会えない人達との懐かしい再会も沢山あって、会場を目一杯楽しむ事が出来た。

 会場で会う仲間たちの存在は俺の大切な宝物だ!




 最初に何も言えねぇって言ったけど、やっぱりちょっとだけ言わせてな。

 パリオリンピックMTB競技には1人の女性ライダーが出場する。

 選考基準通りの選考だったから文句は何も言えないけれど。


 日本の枠を取る為に必死になっていた選手がいた。枠が取れなくてどん底に落ちたけど、必死に切り替えて進んできた彼女。

 繰り上がりで日本に枠が回ってきたのは本番の1ヶ月半前。その時点で選考基準に当てはまるのは別の選手だった。


 彼女の事を思うと、正直今更枠なんて回ってくるなよって思ってしまった。枠があっても今更派遣するなよって思ってしまった。

 勿論、出場が決まった選手だって応援している選手だ。

 だけど、彼女の事を思うと「おめでとう」の一言も言えなかったんだ。


 だけど、派遣選手が別の選手に決まって、どん底に落ちた彼女はまたひとつ乗り越えて日本チャンピオンになった。

 マウンテンバイクが大好きと笑顔を見せる彼女。


 男子も女子もオリンピックを目指して必死にやってきた選手達のレースを見て、やっぱりここで1人でもオリンピックに派遣される事はとても意義がある事だと感じた。

 そして今回オリンピックに出場する選手をしっかり応援したいと思った。

 巡ってきたのは日本選手団が必死に掴み取った枠。思い切りチャレンジしてきてほしい。

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男言葉で綴ったら自分の思いがそのまま書けるかもしれないと思って書き始めた俺の自転車ライフ 風羽 @Fuko-K

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