作者さんは女性ですが、中を読んでみるとタイトル通り本当に男言葉で語られており、時折女性であることを忘れてしまいます。
しかし、このエッセイを読んでいると、作者さんが自由に心地よく文章を書いているのが分かります。もしかすると世の中に漂っている、「男はこうである」「女はこうである」という枠からはみ出ているからこそ、尚更そう思うのかもしれません。
それからこの作品を語る上で大切なのは、「自転車」の話です。
作者さんは、学生のときから三十年間、自転車競技やレースに参加なさっていたようです。選手だったということですね。
作者さんは、きっと選手として色んな苦悩をしてきたのだと思います。
しかし、作者さんの凄いところはただでは諦めないこと。彼女の経験してきたことが、今度は誰かを救っているのも凄いなと思いました。
作中のタイトルの中に『一緒にライド』というのがあるのですが、私はこの話が特に印象に残っています。引きこもりの子が、自転車を通していい方向へ変化するところがとても驚きだったのですが、同時にとても嬉しい気持ちになりました。
私は、人生の中でほぼシティサイクル(ママチャリ)しか乗ったことがありませんが、自転車を乗っているときの風の心地よさは分かります。上り坂を必死に上ったのち、坂道をすーっと降りていくときのあの開放感。とても心地いいです。
もしかすると塞ぎこんでしまった人も、作者さんのような人と出会うことで、自転車の「気持ちよさ」に気づき、嫌なことではなくていいことや、楽しいことに気づいていけるのではないかと思ったりしました。
自転車の風を感じることのできるエッセイ。塞ぎこんでいた気持ちも、男前で明るい作者さんのお話を読んだら、吹き飛ぶかもしれませんよ。
長年のレース歴を持つ筆者の「自転車ライフ」をベースにしたエッセイなのですが、そこで語られる色んなお話が「生きること」に通じているのがすごく面白い。
日常で忘れがちなことや、やり過ごしていること、見えずにいることなどを、自転車にまつわるエピソードを通じて読み手に気づかせてくれます。
そこには自転車という世界からさらに広がりを持って生き方の根源的なところまで繋がる何かがあり、読んだ後にうむ、と考えさせる余韻があるのです。
とはいっても難しい内容ではありません。なにせ語り手の風羽さんの「男言葉」が軽やかで楽しく、自転車ひとすじの愛に溢れているのが読んでいて気持ちいい。そしてこの語り口調のなかにご自身の照れが見え隠れするのがちょっと可愛らしい(失礼!)自転車に対するまっすぐな情熱へのリスペクトとともに親近感を覚えます。
説明がとても分かりやすいので、自転車レースを知っている必要はありません。読んでいるうちにいつの間にか風羽さんの感受性や優しさ、熱い気持ちに乗せられていることでしょう。
自転車だけじゃない「ライフ」がいっぱい詰まっている素敵なエッセイ。
ぜひとも多くの人に触れてもらいたい作品です。