弁護システムフェイズ5、自然人による最終弁論を開始します

 さて、被告人は段階的に排斥され、夫はアンドロイドとの関係性を深めました。これまでの夫婦仲、感染症の脅威からしても、最大限に妥当であろう、と判断されます。
 本件のアンドロイドへ加えた不可逆的破壊行為は、相続手続の完了していない、所有者が夫のものでした。
 しかし今、被告人の夫による「段階的排斥」が世の一般の女性からして妥当な、つまり不愉快のない行動であったか、受忍性はどうであったか再度考えるべきでしょう。
 現に、被告人はアンドロイドを通じ「愛されていると疑似体験した」とした旨を供述しています。
 今際の際、夫の身を案じ大慌てで居室へと向かったセキュリティログと照合しても不自然はなく、被告人はアンドロイドを通じ疑似的に愛が深まっている、とも取れる行動です。

 でも、待ってください。夫は一体誰を愛していたのでしょうか? 被告人の生き写しのようなアンドロイドか、それとも被告人か。
 この量刑が最大に酌量されるべきところは――これは民事で争うこととなりましょうが――夫が愛していたのはアンドロイドでした。その不貞行為、逸脱行動をアンドロイドと共に毎夜のごとく実行し、夫が死に際して被告人を拒絶したという点です。

 ――ここまでの弁論で、疑いようのない事実でしょう。夫は、被告人とはまったく別な女性を模したものを溺愛し、結果的に被告人を印象操作し、極めつけに全力で拒絶をした。夫の、とどめの一言がログに残っています。
「あの女め」。

 いかがでしょう? ああ、あの閨はあの時の自分たちを思い出しているはずだ、と思っていた被告人の心は完全に虐げられました。わたしには被告人が哀れでなりません。
 
 裁判員のみなさまに幸いのあらんことを。