悪役令嬢に監禁された少女のプリズン・ブレイク!

幼馴染の王子の誕生日パーティーに出席した『アノン』は、嫉妬心に燃える令嬢『マリア』によって地下に監禁されてしまう。愛する王子『マルク』が助けに来てくれることを祈りながらも、監獄から自力で脱出するため、そしてマリアの罪を精算させるため、文字通り地の底から這い上がる――。
悪役令嬢モノ×脱獄モノという題材で、実にワクワクするテーマでした。囚われた主人公が味方を増やして抜け出して、最後には元凶である令嬢にリベンジし、信頼や愛情を裏切った王子にも因果応報の運命が訪れる。そして主人公は真実の愛を見つけ、ハッピーエンド……というプロット自体は、とても魅力的で面白いと思いました。

ただそのプロットを作品として、上手く表現しきれていなかったのだけが残念です。脱獄モノなのに、脱出シーンがかなりアッサリしていたのも期待外れでした。
更にアノンの心の機微や言動などで、共感や感情移入するのが難しく、「なんでそうなるの?」と思ってしまう部分が多々ありました。そのため『理不尽に囚われた主人公が、最後には逆転勝利してスカッとする物語』ではなく『片想いしていた幼馴染の結婚式を腹いせにブチ壊しておいて、自分は幸せになる物語』という風にも見えてしまったのが非常に惜しいです。
加えて、警備隊長アロクスと復讐者マックとの因縁、あるいはサルバドールとミミックの真実など、インパクトや個性はあるものの、本筋と関係のないエピソードを差し挟んでいることで、展開のテンポが悪くなっていたのも気になりました。

あと細かい指摘ですが、『王子』や『令嬢』、『お城』や『兵士』や『村』という中世風のワードが出てきた後に『監視カメラ』や『モニター』、『銃のような玩具』や『映画、動画、写真』といった現代的な技術が出てくると、どういう世界観や時代設定なのか混乱してしまいます。
中世風の街並みがある現代の国家なのか、そういう技術もあるファンタジー世界なのか。そこはシッカリと統一した方が良いです。

指摘が色々と多くなってしまいましたが、作品の根幹となる物語自体は、とても魅力的でした。
あとはそれを説得力ある描写や違和感のない展開によって表現できれば、もっと多くの読者を惹き込めると思います。