第3話 紙切れ一枚の人生

豆知識;今では株取引は電子化が進みデータ上の取引となっていますが、昔は株券という紙で所有しており、取引も紙切れを売買する事で行われていたそうです。

(実際の取引は見たことがないですが)

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 あるとき私は株権を一枚買ってみた。

 月収3月分のお金がかかったが、配当とか優待というのがあるそうなので楽しみである。

 それから仕事が忙しく、1年ほど放置していたらその会社の不正が見つかったらしく、株価は1/10まで落ちた。

 周りの人は、何故そこまで下がる前に売らなかったのか?勿体ないことをした。

 とか

 今からでも遅くないので早く売れと言った。

 貧乏人になるぞとまで言われた。


 そこまで言われると気分が悪い。


 私は面倒なのでそのまま放置しておいた。


 すると2年後に新しい経営者が会社を立て直し、元の値段まで戻った。

 周りは早く売ってしまえと助言する。

 なにしろ1/10まで下がった株だ。いつ元通りになるかわからないぞ。

 とか

 人間地道が一番だと分かっただろ。夢を見るのはもうやめろ。と聞きもしないのにアドバイスするものもいた。


 それでも売らずに持っていると、さらに株価は上がり20倍に膨れ上がった。


 すると不動産の営業マンや、寄付目当ての人間、別の投資を持ちかける人が寄ってきた。

 このまま、持っていた方がよいとか、ここで売ってしまえなど、人の株券にアドバイスをする人がたくさん増えた。

 中には以前に何故売らなかった。と私をなじったくせに「私を信じて持っていて良かったね」などと言い出す男もいた。

 金持ちになると他人の金を自分のものと勘違いする人間が増えるらしい。


 

 実際に持っているわけではないがどうやら私は大金持ちになったらしい。


 ここから戦争が起こり、株価は半分になった。


 すると自分の株券でもないのに絶望の悲鳴を上げたり、泣きながらなんで売らなかったと怒り出す者までいた。


 私自身は変わってないのに、株券一枚で金持ちと見られたり貧乏人とさげすまされる。

 私と言う人間はこの大量の金の引換券になったり、少額になる、この紙切れ一枚で評価が変わるらしい。


 やがて私は年老い墓を生前の内に作ることとなった。

 そこには一文

『紙切れ、ここに眠る』

 と彫らせた。

 墓には株券だけ入れておいた。

 

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短編はもうからない 黒井丸@旧穀潰 @kuroimaru

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