ここまで辿り着いた君へ

味噌わさび

第1話 最後のページの内容

 最初に、よくここまで辿り着いたと言っておきたい。


 この日記を読むことが出来ているということは、この部屋の中まで入ることができたということだ。


 この部屋は私が作った隠し部屋だ。


 なぜ私が隠し部屋を作ったかと言えば……この日記を読んでいる君はわかるだろうが、彼女のためだ。


 彼女にはもう会っているだろう? いや、会っていなければおかしい。


 この家に入った瞬間から、彼女は君を見ている。


 君は、君以外にも誰かと一緒に来たのかもしれないが……まぁ、この部屋に入ることができたのは幸運な君一人だけだろう。


 君はまず、思っているはずだ。彼女は一体なんなのだ、と。


 端的に言ってしまえば、彼女は私の恋人だ。では、私とは何者なのか。


 名乗るつもりもないし、私の名前を言ったところで今の君にはどうでもいいことだろう。


 私は科学者で、彼女はそれは美しい恋人だった。だが、美人薄命という言葉があるように、彼女は私といつまでもいられるわけではなかった。


 この日記のこの頁までには、私の苦悩と怒りが書き綴られているわけで、君もそれを読んだからわかるかも痴れないが……簡単に言えば、私は納得できなかったのだ。


 なぜ、私と彼女は引き裂かれなければならないのか……そんなの認められるわけがない。


 それならば……彼女を死なせなければ良いのだ。私は思いついた。


 それからは、無我夢中で研究を続けた。彼女を延命させる……いや、死なせないようにするために。


 しかし、無我夢中だったのがいけなかったのだろう。


 気がつけば、彼女は研究の成果で、大分、私と出会った時の容姿とはかけ離れた姿になっていた。おそらく、その姿は……これを読んでいる君はすでに目にしていることだろう。


 もちろん、私は優秀な科学者なので、彼女は延命どころか、不死の存在になった。ただ、若干、人間のときよりも凶暴になってしまった。


 だが、彼女は彼女だ。私にとっては、それはどうでもいいことだ。彼女がとにかく生きてさえいれば。


 私は彼女の容姿が変わってしまっても、この二人の愛の巣で暮らすことにした。幸い、彼女もこの場所から離れようとはしなかった。きっと、まだ私のことを覚えてくれているのだろう。


 だが、彼女は日に日に凶暴になっていった。私のことも攻撃してくるようになった。


 無論、それで残念がるとか、悲しいとか、そういう感情はなかった。彼女は生きているのだ。生きていれば、誰かを攻撃することだってあるだろう。


 そして、私はこのままいけば、彼女に殺されると理解した。何度も言うが、怒りや悲しみはなかった。


 隠し部屋を作り、今までのことを書いた。それが、この日記だ。


 おそらく、君は私が生前に流布した「この廃墟にはお宝がある」とか「金庫に隠し財産が眠っている」なんていう嘘に釣られてやってきてくれたのだろう。


 本当に、君には感謝している。


 今の彼女の好物は一つしか無いのだ。というよりも、それしか食べない。


 当初は私がなんとか調達していたが、それもできなくなってしまった。


 だから、定期的にこの場所に、人間がやってきてくれないと、困るのである。


 君は今、理不尽な怒りに苛まれているだろう。


 だが、私は彼女と一つになることを選択した。よって、既に私は彼女と一体化している。


 私に文句を言いたければ、君が彼女と一体化した後に言うしかない。


 残念ながら、この隠し部屋もすでに彼女にはバレている。彼女がこの部屋に入ってくるのも時間の問題だ。


 最後に、言葉を使わなくなった彼女に代わって、君に言わせてほしい。


 ありがとう。そして、いただきます。

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